2.1 海外資産の種類と税金
1. 海外資産の種類_預貯金・有価証券・不動産
日本が少子高齢化で投資機会が長期的に減っていくと予測されているのに対し、海外では人口が増加し、将来にわたって高い経済成長率が見込めます。そのため、アメリカや東南アジアの資産に対し、積極的に投資を行う日本人が増えています。
海外資産といっても、国内資産と同様、多種多様なものがあります。その中でも、もっとも投資対象に選ばれやすいのが「預貯金」「有価証券」「不動産」になります。これらについて解説します。
1 外貨預金
日本円を外貨に換えて普通預金や定期預金に預け入れるのが外貨預金です。外国の銀行だけでなく、最近では日本の銀行でも取り扱うようになりました。
金利がつくのは円預金と同じですが、預入時より円安になった場合、外貨から円に戻す際の為替差益が得られます。そのため、今後の円安の進行を予測した上での利益を目的として外貨預金を始める人が多いことが特徴です。
取り扱う外貨は銀行によって違いますが、代表的なものは米ドル、ユーロ、オーストラリアドルです。また、昨今では、中国人民元やメキシコペソ、ブラジルレアルなども選ばれています。
2 有価証券
海外の有価証券は経済が成熟した国内のものよりも値動きが激しいため、より大きいリターンが見込めると判断した日本人投資家の人気を集めています。外国株式、外国の国債・地方債、社債、投資信託など、国内の有価証券と同じく、多様な種類が存在します。
3 不動産
アメリカのハワイなどリゾート地に別荘を買うという旧来の投資スタイルのみならず、インドネシアやフィリピン、マレーシアなどのアジア新興国の不動産に対する投資も人気が高まっています。新興国では、かつての日本の高度経済成長期のように、人口の増加と都市への集中が続いていて、住宅や商業施設に対する旺盛な需要により、長期的な市場の拡大と価格の上場を期待することが可能だからです。この場合、現地の不動産を賃貸物件として購入することにより、継続的なリターンが見込めます。
2. 国外・国内で発生する税金の概要
ここでは、海外資産を取得する際、国内外で発生する可能性のある税金について説明します。
1 外貨預金
日本円で外貨預金を購入した場合、日本においても海外においても、税金は発生しません。
ただし、A国の通貨を売ってB国の通貨を買った場合、つまり、すでに保有している外
貨を他国通貨に替えた場合には、日本の税法では、すでに保有している外貨を手放した事実について「資産の譲渡(=雑所得)」とみなされます。そのため、手放した日の属する年の翌年3月15日までに、所得税の確定申告をしなければなりません(年収2000万円以下の給与所得者が、この外貨交換の差益を含めた給与以外の所得が年間20万円以下なら確定申告は不要)。
なお、このような取引を、いわゆるFX取引きとして日本の金融庁に対して金融商品取引業者として登録している業者を介して行ったのならば、「先物取引に係る雑所得等」として20%(所得税15%、住民税5%)の税率が適用されますが、それ以外の業者を利用した場合には、通常の雑所得として総合課税が適用されることになります。
2 有価証券
海外の有価証券等を取得した場合、日本では取得した時点で税金はかかりません。海外の税金については、その国や地域によって取扱いが異なります。
3 不動産
日本で不動産を取得した場合は、通常、不動産取得税や印紙税、登録免許税などがかかります。海外の不動産を取得した場合、税金の取扱いは国ごとに異なります。
アメリカのハワイ州の場合は、不動産取得時に税金はかからないものの、毎年10月1日の時点で、その所有形態や固定資産税評価額に応じ、毎年0.35%~1.24%の税率(オアフ島)で固定資産税が課税され、年2回に分けて納付しなければなりません。
中国においては、不動産を取得する時に「契税」という契約税(日本の「不動産取得税」のようなもの)を払うことになります。各行政単位で契税の税率は異なります。たとえば、上海で個人がマンションを購入する場合には、購入価格の1.5%または3%の契税を、上海市が規定する条件を元に購入者が負担することになります。これについては不動産登記の際、納税確認が行われます。その他、不動産売買契約書記載の購入価格に対し、一定税率の印紙税の納付が必要になります。
また、自動車などの動産、その他の資産についても、その資産の所在地国によって税制は様々です。日本と同様に取得税を設けている国もあれば、そうでない国もあります。そのため、事前にその資産の取得にどういった税金がかかるのかを調べておく必要があります。
3. その他海外資産取得の際の手続き
海外資産を取得する際、気になるのは税金だけではありません。購入者によってはローンを検討する方もいらっしゃると思います。海外資産購入時にローンを組むことは不可能ではありません。ただし、ハードルは日本のローンより高くなります。
アメリカのハワイを例に挙げましょう。結論からいうと、日本に居住しながらハワイの物件購入のためのローンを組むことは可能です。ただし、金利が高いことや短期間の変動金利のみしかないことなど、一般の日本人が考えるローンほど条件がよくないことがしばしばです。
また、ローン契約時、通常、次のような書類の提出を求められます。
- 過去2年分の確定申告書、源泉徴収票、給料明細書及び翻訳書
- 過去2年分の損益計算書及び翻訳書(個人事業主の場合)
- 残高証明書
- 一定率以上の頭金(銀行により異なります)
また、こういった住宅ローンは、すべてのアメリカの銀行で利用できるわけではありません。海外居住者専用のローンを取り扱っている銀行に限られます。
さらに、住宅ローンは審査に時間がかかるため、物件を探すより前に、銀行を調べ、借入限度額、条件などをチェックしておくことが必要となります。
その他、国や地域によってこういったローンが可能かどうかは異なります。事前に調べておくことが望ましいでしょう。
4. 取得後に必要となる税法上の手続き_国外財産調書
海外の資産を取得した場合、その資産を運用していればよいわけではありません。実は毎年確定申告時期に、「国外財産調書」という海外資産についての報告書を税務署に提出しなくてはならない場合があります。
国外財産調書制度とは、平成25年以降、各年末時点で保有している海外資産についての税務署への報告義務制度です。平成24年度税制改正により創設され、各年末時点での保有海外資産の総額が5、000万円超である居住者が制度の対象者となっています。また、報告しなくてはならない財産は、この章で解説してきた預貯金・有価証券・不動産が中心です。
詳しくは、本章この後の「2.2 国外財産調書」にて解説します。
5. 国外財産調書を提出しなくても情報は筒抜け_国外送金等調書
「海外の資産のことなんて、日本の税務署に分かるはずがないよ」「国外財産調書なんて出さなくても大丈夫」―。いまだにこの風説を信じる方は少なくありません。また、海外の不動産や金融の仲介業者や指南書でも、投資の情報やメリット・デメリットについては詳しく説明するものの、投資することによる税務上のリスクについてまで解説するものは極めて少ないのが現状です。
しかし、先述の国外財産調書を仮に出さないとしても、日本の税務当局には、海外財産の存在を知る手段があります。その一つが「国外送金等調書制度」です。
国外送金等調書制度は、平成10年に創設され、100万円(米ドルなどの外貨の場合には100万円相当額)を超える金額の送金の事実があった場合、取り扱った金融機関が税務署にその事実を報告しなければならないというものです。元々はマネーロンダリングや脱税、資産隠しの防止及び早期発見のための制度ですが、個人における海外投資が活発になった最近では、所得税の調査の際の資料として重要視されるようになりました。
海外資産から得られる利子収入や配当、家賃収入が国外から国内に送金される場合には、たとえ国外財産調書を提出しなかったとしても、送金の事実から海外資産の存在は推測されてしまいます。更に、その資産の所在地国の税務当局との情報連携により、その裏付けが取られることもあります。
なお、この国外送金等調書制度については、この後の「2.3 国外送金等調書」にて解説しています。