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各国移転価格NEWS~タイ~【1】

タイでは移転価格ガイドラインとして、2002年5月に、タイ歳入局より「歳入局施行規則Paw.113」が公表されました。それまでは、関連者間取引から生じる租税回避に対する条項で対応していましたが、同ガイドラインにより、移転価格税制に関する詳細な規定が明らかになりました。同ガイドラインはOECDガイドラインに基づき、

  1. 「市場価格」に基づく収入と費用の評価
  2. 独立企業間価格算定手法
  3. 資料・情報の作成・保管・提出義務(文書化)
  4. 事前確認、等

が定められています。ただし、同規則はあくまで通達であり、法的拘束力はありませんでした。
2015年5月、タイ内閣は、関連者間取引のための移転価格規定を適用する新移転価格法案を承認しました。制定されれば、現行の税制が修正されることになります。同法案により、

  1. 関連者間の取引に適用される移転価格規則を決定する基準が定義され、
  2. 税務署員が課税所得や正当な控除を調整することを可能とし、
  3. 還付金の申し出の期間を決めることを可能

とします。ここでいう “関連者”とは、OECDガイドラインに基づいて直接的、または間接的に他方の経営に参加し、支配している、あるいは資本参加している事業体であり、関連者間で行われる取引が移転価格税制の対象となります。
新移転価格法案では、事業体は移転価格文書を用意し、税務課に提出することが義務付けられました。もともと、文書化については、法的な義務はなかったものの、ガイドライン113より、企業により事前に作成準備されることが要求されていました。歳入局調査官の調査時に企業内に保存される文書として10項目を指定されており、これらは、

  1. 多国籍企業の継続ビジネスの概要
  2. 移転価格手法を選んだ理由の説明

と大きく2つのカテゴリーにわかれています。さらに、また、文書化の年毎の提出要求はなされないものの、文書は年毎に更新される必要がありました。比較対象社の財務データは2、3年ごとに更新されなくてはならないとされていました(※タイ税務当局は、タイ国以外に所在する外国企業を比較対象企業として許容していない)。ところで、こうしたタイの文書化制度は、かつてオーストラリア税務当局(ATO)のもとで、約100名のタイの税務職員が移転価格研修をしたことから、ATOのルールにしたがって文書が作成されています。
さて、新移転価格法案では移転価格文書はさらに、

  1. 資本、管理、支配に関して、他の事業体との直接的/間接的関連
  2. 会社間の収支を計算する方法

についての情報を求めています。文書は納税申告時までに用意されるべきとし(納税は企業の事業年度の終わりから150日以内)、移転文書が合理的に期限内に提出できなかった場合は、事実上、税務当局自ら独自データ(シークレット・コンパラブル)をもとに算定した独立企業間価格をベースとして納税者の全社損益の営業利益水準と比較し、調査を進める(推定課税)ことを是認することとなり、納税者が不利な立場に置かれやすくなります。なお、文書の言語は、基本タイ語ですが、英語でも提出可能です。その場合、後日タイ語に翻訳するよう要求されることもあります。
タイにとって、移転価格税制を強化していくことにより多国籍企業のタイへの投資が阻害されることは望ましくないとし、移転価格の執行に対してはATOの推進する「協力的アプローチ」を目指しています。