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各国移転価格 NEWS~インド~

インドの移転価格税制は、OECDガイドラインに準拠する形で2001年に導入された後、移転価格調査が積極的に進められ、それに伴い移転価格税制に係る関連規定や制度について整備されてきました。
2012年5月には事前確認(APA)制度が導入され、続いて同年8月にはAPA制度に関するガイドラインが公表されました。
移転価格文書については、2016年財政法に基づく移転価格文書の作成が規定され、インド予算案2016で国別報告書の導入に関する条項が公表されました。
同条項において報告書提出者については、連結総収入金額が750百万ユーロ超のインドの多国籍企業の親会社あるいはインドにおける代理報告企業と規定されています。
当該条件は外国親会社の在インド子会社にも適用され、提出日は法人税申告書の提出時とあります。
2016年4月1日以降に開始する会計年度から適用されていますが、同規定では提出フォーマット等の詳細は未定で、また、マスターファイルにも触れられていませんでした。

このように移転価格文書作成について環境が整備されつつあるなか、2017年10月6日に直接中央員会が移転価格文書に関する規則ドラフトを公表し、続いてパブリックコメントが募集されたのち、同年10月31日に国別報告書に関する最終規則が公表され、同時に所得税法92D項(移転価格文書化に関する条項)ではマスターファイルの準備をすることが規定されました。

まず、マスターファイルについて規定しているルール10DAでは提出の義務のある納税者に二重の閾値を定めています。
①会計年度の多国籍企業の連結グループ所得が50億INR(7,700万USD)を超えている場合、
②会計年度における国際取引総額が5億INR(770万USD)あるいは、販売、移転、無形資産のリースや使用額がそれぞれ1億INR(150万USD)超えている場合、
は、FYが2016-17では2018年3月31日以前にマスターファイルを提出(その後は法人税申告日前に提出)することが規定されています。
マスターファイルはフォーム3CEAAで提出するように定められています。
同フォームでは多国籍企業の名前やインドの企業の数、それぞれの企業の名前、基本税務番号(PAN)などの基本情報を要求されます。
多国籍企業がインドに拠点をおく企業が2つ以上ある場合、多国籍企業は3CEAAを提出する企業を選択することができます。
その場合、その企業は同様の内容を所得税国際課税総局長に対して、フォーム3CEABを用いて提出しなくてはならなりません。

今回規定されたマスターファイルの規定はBEPS行動計画に対応しているものとなっているものの、何点か異なる点もあります。
たとえばBEPS行動計画13では、多国籍企業内の個々の企業による価値創生の主要な貢献について簡単な機能分析ルールでよいのに対し、ルール10DA では、多国籍企業の収入、資産、利益等の少なくとも10%に貢献する構成企業の機能分析、資産分析、リスク分析の説明が求められています。
また。行動計画13では、多国籍企業がどのように資金調達しているかの一般的説明でよいのに対し、多国籍企業の資金調達の詳細の説明が求められ、非関連会社であれば貸手トップ10社の名前と住所を開示することが要求されています。
他にも行動計画13では無形財産の開発や管理にかかわる企業をリスト化する等詳細についての開示要求はないのに対し、ルール10DAでは無形財産の開発や管理に係わる多国籍企業のすべての企業のリスト(アドレス含む)が求められるなどが挙げられます。
次にルール10DBは行動計画13に沿った形で国別報告書に関して提出されるべき詳細や手続きを規定しています。
同ルールでは、連結グループの会計年度収益が550億INR(8億460万USD)を超える場合、国別報告書を提出しなければならないと規定しています。
上記条件に当てはまる企業は次の3つのカテゴリーに分類されています。

第一にインドに居住する親会社、あるいはインドに拠点をおく代理報告企業で、フォーム3CEADにて提出することが要求されています。
フォームに含まれる情報は行動計画13と類似しています。
FY2016-2017の提出期限は3月31日でその後は法人税申告時に提出となります。
第二に親会社はインドになく、構成企業がインドに居住している場合はフォーム3CEACで国別報告書を提出することになります。
この構成企業は多国籍企業の報告企業であり、親会社、代理報告企業、企業が居住するとされる国あるいは地域の詳細を公表しなくてはなりません。
提出期限は少なくとも国別報告書を提出する2か月前となります。
たとえばFY2016-2017年の国別報告書の提出期限は2018年3月31日まで延期されたので、Form 3CEACの提出期限は2018年1月31日となります。
第三に構成企業はインドに居住しているが、親会社がインドに居住していなくその国と国別報告書の交換協定が結ばれていない場合か事実上機能停止している場合、3CEADで国別報告書を提出します。
親会社がインドに拠点をおく構成企業に提出を指名し、3CEAEで指名された通達を行います。
提出期限は第二の場合とおなじく、2018年1月31日となります。
今回公表された最終ルールでは、政府はドラフトで曖昧であった部分を明確にすることを目的としていたといえるでしょう。

ドラフトルールに対して最終ルールでなされた注目すべき改善点としては、最終ルールで定められたマスターファイルでは多国籍企業のすべての会社リストを必要とすること、会計年度の最後の日の対顧客電信会相場と同じレートが定められたこと、すべてフォームは収入の申告を検証する資格のある人物によってサインされなくてはならない、ことなどがあげられます。
けれどもマスターファイルにより高い閾値を要求し、よりBEPS行動計画13に対応した形にするといった提案は見送られた形となったといえます。
またマスターファイルや国別報告書の適用や準備や提出に関して曖昧な点が残されていることも指摘され、マスターファイルや国別報告書を遵守しないことに対する厳しいペナルティを施行するにあたっても上記のような曖昧性をなくしていくことが求められるでしょう。