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各国移転価格NEWS~香港~【2】

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国際的にOECDガイドラインに沿ったかたちで移転価格税制の法整備が進められるなか、香港税務局(IRD)でも移転価格関連の政策が進められています。201610月に、香港政府はBEPSプロジェクトを導入した移転価格規則を含む一連の政策に関する公開草案を公示し、香港財経事務及庫務局のウェブサイトにて公開しました。その後、草案に寄せられた意見及び、2017年度に更新されたOECDガイドラインに従い、201874日、2018年税務(修正)(第6号)(以下、「修正条例」)が可決され、713日より施行されました。修正条例は、香港で初めて移転価格税制を法制化した法規となります。その施行は、待望されていた移転価格税制及び文書化要件の導入であり、香港がOECDの国際的取組みであるBEPS行動計画を実施することを明確にしました。

ここでは、修正条例で明確にされた移転価格文書に関する事項をみていきましょう。香港は移転価格文書要件を初めて公式に取り入れ、移転価格文書の三層構造要件(国別報告書、マスターファイル、ローカルファイル)を採用することを定めました。ただし、草案が公表されて以降、法規遵守の膨大な負担に対する納税者と立法委員の懸念を反映し、規定が緩和されたため、当初よりも文書を義務付けられる企業は少なくなりました。また、ある特定の域内関連者取引は移転価格税制の対象にならないことも明記されています。

では、移転価格文書の免除については、どのように定められているのでしょうか。修正条例では、次の条件を満たす納税者は、マスターファイルとローカルファイルの準備を免除されると定めています。

1)事業規模に基づく免除で、①年間総売上が4億香港ドル以下、②総資産が3億香港ドル以下の企業、③平均従業員が100名以下、の条件のうち2つを満たす企業。

2)関連者取引の規模に基づく免除で、①金融資産や無形資産を除いた有形資産の取引が22,000万香港ドル以下、②金融取引が11,000万香港ドル以下、③無形資産取引が11,000万香港ドル以下、④役務取引やロイヤリティ取引等の他の取引が4,400万香港ドル以下、のいずれかの条件に該当する場合。

また、修正条例は、文書要求からは適用除外とされる「特定の」領域内取引について、「特定の」領域内取引が、次の3つの条件を満たしている場合は、当該取引は、香港の税制上、いかなる利益をも得ていないものとみなす旨を規定しています。

1)当該取引当事者が、香港で行っている交易、サービスの提供、営業事務にかかわる場合で、当該取引にかかる当事者の一方が、これら交易、サービスの提供、営業事務にかかわり、もう一方が、税法上、香港の居住者である場合。

2)取引アレンジメントの結果として、実質上、租税義務に差異が生じない場合。すなわち、当事者が得る利益が香港で課税され、いかなる減税や免税措置も適用されない場合。あるいは、非営業貸付条件に該当する場合である。すなわち、金融業者またはグループ内融資ビジネスではない貸付の場合である。

3)取引の主要目的が、租税回避のために、税務上、欠損金を利用していない場合。

上記条件に基づき、現在時点においては、1,390社の香港企業が、マスターファイルとローカルファイルを要求されことになるでしょう。両ファイルの内容は、草案から変わっていません。両ファイルを準備する期限は、会計年度の最終日6ヵ月から9ヵ月に修正され、納税申告期限に合わせたものとなっています。他国の文書導入の経験から、初めて移転価格文書の準備を行う企業にとっては、最初の数年間は、猶予期間が必要だということでしょう。

また、ローカルファイル及びマスターファイルの提出義務は、IRDから要請された場合のみです。しかしながら、納税者は7年間、準備した文書を保管する義務があり、IRDにより、法令順守がなされているかの審査等が行われます。

ペナルティについては、期限までに文書を準備しない納税者に対して5万香港ドルから10万香港ドルの罰金が課せられます。

移転価格文書の三層構造のうち、国別報告書については、草案でも示さたように、多国籍企業グループの香港居住の最終の親会社が、前年度の連結売上が68億香港ドルを超える場合、最終の親会社、あるいは、代理人として委任された香港企業は、国別報告書を準備し、IRDに提出する義務があると明確にされていています。もし、遵守されなければ、5万香港ドルから10万香港ドルの罰金と、1日当たり500香港ドルの罰金が課せられることになるでしょう。

他にも、修正条例では、OECDガイドラインを適用することによって「価値創造への貢献度に応じた経済的利益の調整」といった重要な概念が、香港の移転価格税制の構成概念として導入されました。特に、無形資産について、DEMPE(開発、改良、維持、保護、使用)に基づき、それらの無形資産を用いて事業者を行っている場合は、それに相応する利益を得るべきであることが定められました。また、香港立法会法案委員会は、香港で適用されてきた「香港内源泉所得のみに対して課税するという原則」(「源泉地主義」)が、新しい法規によって変更されることはないと確認しました。

加えて、事前確認制度(APA)についても明記されるなど、修正条例は、香港でもBEPSプロジェクトの条件に従い移転価格税制が進められていることを表明しています。今後は、修正条例について、IRDDIPN(税務条例解釈及び執行ガイドライン)のかたちで、更なるガイドラインを公布していくことになるでしょう。