各国移転価格NEWS~タイ~【2】
移転価格税制やその文書化に係る制度からみると、タイは、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナムなど、すでに法整備が完了しているアセアン周辺諸国に比べて遅れている状況でした。そうしたなか、2017年6月21日に移転価格に関する修正法案がタイ歳入局のウェヴサイト上に掲載されました。2015年に最初の移転価格法案の骨子が内閣で可決されたものの承認に至らず、しばらく動きがなかったのですが、ようやく修正案として公表されました。修正法案の要点は、以下のとおりです。
1.対象法人の定義
関連者取引を有する売上収益の額が省令に定める金額を超える法人は、移転価格に関する付表、および、移転価格文書の提出を求められます。同修正案の段階では、基準額は明確にされていません。要求された文書を提出しない場合には、20万バーツ以内の罰金も定められました。
2.関連者の定義
関連者とは50パーセント以上の直接または間接の資本関係がある法人、および、実質支配関係にある法人であると明確に定義されました。関連者は、国外の法人に限定されていないため、タイ国内の関連者取引も移転価格税制の対象となる見込みです。
3.付表の提出
関連者間取引の金額など、関連者間取引に関する情報を記載した付表を作成し、歳入局への提出が求められます。書式は、修正法案では公開されていません。
4.提出時期
移転価格文書は、企業による法人税申告時の提出は必要ありません。しかし、歳入局の調査の過程で提出を求められた場合には、その日から、原則60日以内に提出しなくてはなりません。
上記の修正案が公表された後、パブリックコメントが募集され、2018年1月3日、移転価格法案として閣議決定されました。パブリックコメントを受け、新たに免除対象法人と適用開始時期、および、移転価格調査の時効が追加事項として加わりました。
すなわち、事業年度の売上が3,000万バーツ未満の法人は関連者の情報や取引金額等を記載した明細書(「関連者取引に関する付表」)の提出を免除される(反対に言えば売上が3,000万バーツ以上の法人は付表提出の義務が生じる)ことが明確にされました。
また、移転価格税制の適用開始時期は、2017年1月1日以降に開始する事業年度から適用されると明記されました。移転価格調査の時効については、税務当局は、関連者取引の付表が提出された日から5年以内に、納税者に対して移転価格文書や証憑の提出を要求することができるとされます。
同法案は、2018年6月5日に国民立法議会(NLA)に提出され、さらに2点修正が加えられました。
1つは、売上基準において3,000万バーツ以上の企業については、事業年度内の関連者間取引の有無にかかわらず、関連者間取引に関する情報を記載した付表の提出が求められることになりました。同基準により、タイ進出の日系企業のほとんどが対象となります。
もう1つは、移転価格税制の適用開始事業年度が延長され、2019年1月1日以降に開始する事業年度となりました。
6月にNLAにおける同上の修正を経て、2018年9月、国民立法評議会により新移転価格税法(以下、TP Law)として承認され、2019年1月からの事業年度に適用されることになります。なお、TP Lawは、下記の重要な変更点を含んでいます。
①会社間の関係の情報や関連者間取引の額等の情報を含む付表のフォーム「Transfer Pricing Disclosure Form」が規定され、タイ歳入局に提出の義務が発生する売上基準は2億バーツとなりました。同フォームは、“PND50”として知られる法人税申告書とともに提出しなくてはなりません。
②同額売上基準(2億バーツ)は、他の移転価格文書の準備と提出についても当てはまります。この基準額に達している法人は、調査により提出が求められた場合は、60日以内にタイ歳入局に移転価格文書を提出することになります。
③初めて移転価格文書の提出要求に関する公式通知を受け取る納税者は、通知のあった日から180日以内に文書の提出をすることが認められます。
今後、承認されたTP Lawは、国王の署名の後、施行となり、タイ国政府官報であるロイヤルガゼットで公表されるでしょう。新たな移転価格税制は、2019年1月から開始する事業年度から適用となり、2020年の初めには、Transfer Pricing Disclosure Formと移転価格文書の提出が求められることから、上記の基準に当てはまる企業は先を見越し、TP Lawに則り準備を始めるとよいでしょう。加えて、タイ歳入局は、OECD のBEPS行動計画13の議論が反映された「OECD移転価格ガイドライン」に従い、マスターファイルの追加要求も計画していることから、留意する必要があるでしょう。