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各国移転価格NEWS~UAE~

 アラブ首長国連邦(UAE)は、アラブ半島の東側に位置する7つの首長国の連邦国家であり、国連や国際通貨基金、WTO、OPEC、GATT、大アラブ自由貿易地域など様々な国際機関の加盟国です。また、クェート、サウジアラビア、バーレーン、カタール、オマーンとともに湾岸協力会議(GCC)6か国のうちの1つです。UAE内には45の自由貿易地域としてフリートレードゾーン(FTZ)
が設けられ、外国との直接投資が促進されています。
国際社会と密接に交流を深めているUAEは国際税務を取り巻く状況においても積極的に参画し、2018年には、サウジアラビアを含む11か国と新たな租税条約(DTT)の調印をしました。また既存の租税条約を変更するためのBEPS防止措置実施条約(MLI)へ署名もおこなっています。日本との関係においても、UAEと両国の税務当局間で、両国のすべての国税および地方税に関する情報を相互に交換することができます。
しかしながら、UEAはOECDの非加盟国であり、2015年時点ではOECDによって進められていたBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの導入は難しいと予測されていました。ところが周辺のEU諸国の潮流や自国自身の国際社会への参加などから、2018年5月16日にOECDのBEPSの枠組みへの参加を発表し、以下の4点について実施することを約束しました。
すなわち、行動計画5:有害税制への対抗、行動計画6:租税条約の濫用防止、行動計画13:多国籍企業の企業情報の文書化、行動計画14:相互協議の効果的実施です。UAEではまだ移転価格税制は整備されていないものの、これにより、サウジアラビアとカタールに続き、GCGで3番目に国別報告書ルールを導入した国となりました。

内容は次のとおりです。

  1. 国別報告書は税法上の居住者や前年事業年度の連結収入が31億5、000万AED(およそ7億6,000万ユーロ、8憶5,500万USドル)以上の多国籍企業に対して求められます。
  2. UAEに拠点を置く多国籍企業は、その企業が究極の親会社であるか、あるいは国別報告書を提出することを任命された代理親会社であるかどうかをUAE財務省に知らせなくてはなりません。あるいは、どのどちらでもなければ、どの企業が国別報告書を提出するのかを知らせる必要があります。この届出は財務報告年度末までに行わなくてはなりません。国別報告書の提出は財務報告年度の終わりから12か月以内であり、最初の財務報告年度は2019年1月1日より開始します。したがって最初の国別報告書は、2020年12月31日(2019年1月1日開始事業年度の場合)が提出期限となるでしょう。
  3. 国別報告書の提出についてはOECD基準に従い電子申告で行う必要があります。OECDのXMLスキーマの採用に関しては、今後より具体的なガイダンスが必要となるでしょう。
  4. ペナルティについても、以下のように定められました。
    少なくとも5年間、文書や関連情報を保管しなかった場合 100,000AED
    外務省に情報を提供しなかった場合 1100,000AED
    対象報告年度から12か月以内の提出期限までに遅れた、あるいは提出しなかった場合 1,000,000 AED+1日遅れるごとに10,000 AED、最大250,000AED
    国別報告書の記載内容が不十分だった場合 50,000 AEDから500,000AED
  5. 外務省の持つ権限について、UAEの国別報告書に関する権限はUAE外務省にあることが明示されました。外務省は提出された国別報告書が完全であるか判断を行い、その権限において提出された国別報告書の追加情報も要請できます。

このようにUAEがOECDのBEPS包括的アプローチの枠組に加わったことは、BEPSスタンダードを取り入れていく重要なステップであり、外国からの直接投資を受けるうえでのグローバル・ハブの地位を固めることにもなりました。上記の国別報告書案件の施行にあたり必要な法的枠組みや有効な当局間合意(CAA)の基本的枠組みの整備が、去年から進められています。
2018年5月、国別報告書の交換に関する税務行政執行共助条約(CMAA)が批准され、2019年に入り、外務省により多国籍企業から提出された報告書の取りまとめが行われ、内閣決議を経て発行されました。それにより、UAEを拠点とする、あるいは、域内で事業を行う多国籍企業の国別報告書のコンプライアンス責務(UAE CbCRルール)が提示され、2019年1月1日以降に開始する事業年度分から適用されることが公表されました。
このように、かつてタックス・ヘイブンの国として周知されていたUAEですが、国際社会の税の取り組みへの参画により大きな変貌を遂げているといえるでしょう。2018年に公表されたOECDのグローバルフォーラムのピアレビュー報告書では、UAEは(OECDの国別報告書に係る枠組みを)「概ね対応している」との評価を得ています。今後は、オンライン提出のポータルや届出及び国別報告書提出のプロセス、OECDのXMLスキーマと異なるのであれば最終的なXMLの詳細等について、具体的な指針が示されることが期待されています。