トランプ関税と移転価格
2025年1月20日に発足するトランプ第2次政権では、米国が輸入するモノに、広く追加関税を課すと報じられています。この点について、移転価格の視点から、留意すべき点を検討してみましょう。
迂回取引に要注意
日ごろ、関税については、貿易相手国との間で不可避的に発生するコストと捉え、コスト削減の意識が薄いと言えるかも知れません。
そんなところ、トランプ氏が、追加関税を課すと、就任前から発言していることから、米国に輸出を行っている世界中の企業が戦々恐々とする事態となっているのも、わからないわけではありません。
ただ、ここは、あわてることなく、正確な情報を入手して、今後の対応をはかっていくことが第一でしょう。
しかし、企業のなかには、トランプ政権下で、低い関税となる国や地域を探し、そこに一度輸出し、その国や地域から米国本土へ輸出をはかるスキームを採用する場合もあるでしょう。
実際、先のトランプ政権下では、中国からの輸入物品に高い関税がかけられたため、一度、日本などの第三国にあるグループ会社に輸出し、そこから米国に輸出する、いわゆる「迂回取引」を行った企業がありました。
こうしたケースでは、あらかじめ複数回(上の例では、中国から日本、日本から米国と2度)関税が発生することを前提に、通常の商取引よりも低い価格で、日本のグループ会社がモノを輸入することもあるでしょう。場合によっては、米国で高関税が課されることを前提に、かなり低い価格で、日本のグループ会社がモノを仕入れ(輸入)を行うケースも考えられます。
そこで、持ち上がるのが、移転価格の問題です。
意外に利益が落ちている!
米国の得意先にとり、米国に輸出されるモノが原材料や部品などであり、それらを用いて製造している場合があります。得意先の納品期日に間に合うよう、比較的前倒しにロジスティックを考えていくケースが考えられます。そうしないと、得意先の製造に支障をきたしてしまう恐れがあるからです。
こうした事情から、トランプ政権下の具体的な関税上乗せも分からぬまま、迂回取引を、いわば決め打ち的に行わなければならない会社もあるでしょう。つまり、得意先への販売価格は不変のまま、中間取引の価格を、暫定価格で行うなどのケースです。
そのようなケースで、結果的に、意図していない利益が、迂回先である日本のグループ会社に落ちてしまうことが起きかねません。
この場合、日本のグループ会社は実態としては、一種の「導管会社(パススルー・エンティティ)」、つまり商社機能でしかないわけですから、日本のグループ会社が得た利益は、「もらい過ぎ」になるでしょう。
しかしそれは、あくまでも想定に過ぎません。そのため、取引金額の多寡などにもよりますが、税務調査を念頭に、ローカル・ファイルなどで分析を行い、あくまでもドキメントとして残しておくことが望ましいでしょう。
切出損益(セグメント)の作成
また、上の例で仮に、中国のグループ会社から、日本国内向けのモノと、米国向けのモノとを仕入れていた場合は、2つのセグメントが存在することになるでしょうから、区別して、営業利益までの損益を示し得るようにしておく必要があるでしょう。
また、もし、日本国内で何らかの製造・加工を加えて輸出を行う場合は、製造等に関わる原価計算も日本国内向けと米国向けとに区分けした、いわゆる切出損益計算を行わなければ、両者の利益率が分からないため、一概に、日本のグループ会社のそれぞれの利益率が、移転価格上、適正であったか否かの判断がつかなくなってしまいます。このように、製造・加工が加わった場合は、問題がさらに複雑化することになります。
米国に輸出する先は、グループ会社か?
そして、もっとも複雑となるケースが、米国に輸出する先が、グループの会社の場合です。つまり、「中国のグループ会社⇒日本のグループ会社⇒米国のグループ会社」というルートを辿り、最終的に得意先に納品される場合は、川下となる米国のグループ会社の利益率等が、移転価格税制の観点から適正であることを確認し、その金額や利益率を用いて、今度は、日本のグループ会社の利益率等を逆算するなどの、いわゆる「引き直し計算」を行い、移転価格上の問題の有無を判断する必要がある場合があります。
引き直し計算が必要か否かは、取引金額や日本のグループ会社が、日本国内で行っている機能や負担しているリスクなどによっても異なるでしょうが、その必要性があるかは、一度考えてみる必要があるでしょう。
おわりに
米国の高関税の問題を、迂回取引などにより回避しようとする企業行動は、先のトランプ政権においてもありました。回避したはずの高関税が、移転価格課税という思わぬところに飛び火することもあるため、企業グループ全体で、正確な情報収集に努め、慎重な対応をはかるべきと言えますので、ご注意ください。