中華人民共和国香港特別行政区の税務当局との仲裁手続に係る実施取決めについて
日本国と中華人民共和国香港特別行政区の権限のある当局は、2010年11月9日に香港で署名された所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱 税の防止のための日本国政府と中華人民共和国香港特別行政区政府との間の協定(以下「協定」という。)の第二十四条5に規定する仲裁手続の実施方法を定め た。
1.事案の仲裁への付託の要請
協定第二十四条5の規定に基づく仲裁の要請(以下「仲裁の要請」という。)は、書面によって、次の部署を経由して同条1に規定する権限のある当局に送付される。
(a) 日本国については:国税庁相互協議室
(b) 中華人民共和国香港特別行政区については:税務局税収協定組
当該要請には、事案を特定するための充分な情報が含まれる。
また、当該要請には、当該要請を行った者による、同一の事項に関する決定がいずれの締約者の裁判所又は行政審判所においても行われていない旨の文書が添付される。
当該要請を受領した権限のある当局は、その受領した日の翌日から10日以内に、当該要請及び添付文書の写しを、それらの英訳とともに、他方の締約者の権限のある当局に送付する。
2.事案を仲裁に付託する時期
仲裁の要請は、協定第二十四条1の規定に基づき一方の締約者の権限のある当局に申し立てられた事案が他方の締約者の権限のある当局に対しても提示された日 から2年を経過した日より初めて可能となる。これに関し、以下の情報が提示された場合にのみ、当該事案は他方の締約者の権限のある当局に提示されたと認め られる。
(a) 相互協議の申立てを権限のある当局に行った者の氏名及び住所
(b) (a)に掲げた者以外の事案によって直接に影響を受ける者の氏名及び住所
(c) 対象となる課税年度
(d) 協定の規定に適合しない課税を生じさせた措置の内容及び時期並びに両締約者の通貨による関連する金額
(e) 相互協議の申立てを権限のある当局に行った者から提出された以下の情報及び補足資料の写し
(i) 相互協議の申立てを行った者が、協定の規定に適合しない課税が生じている、又は生じることになると考える理由についての説明
(ii) 関係する取引及び関連者の関連性、状況又は構成、及び
(iii) 協定の規定に適合しない課税に関して税務当局から受領した文書の写し
(f) 事案によって直接に影響を受ける者がいずれかの管轄区域において、異議申立書、審査請求書又はこれらに相当する文書の提出を行ったか否かを記載した文書、及び
(g) 協定第二十四条1に規定する権限のある当局が、同規定に基づく相互協議の申立
てを受領した日の翌日から90日以内に特に求めた追加的情報
両締約者の権限のある当局は、この2で示されたすべての情報が提示された日について相互に確認を行う。
協定第二十四条1の規定に基づき相互協議の申立てを受けた権限のある当局は、その申立てを行った者に対して、この2で定められた相互協議手続の2年間の開始の日を通知する。
3.付託事項
両締約者の権限のある当局が仲裁の要請を受領した日の翌日から90日以内に、両締約者の権限のある当局は、仲裁のための委員会によって解決されるべき事項について決定し、それを書面で当該仲裁の要請を行った者に通知する。この決定は「付託事項」を構成する。
また、両締約者の権限のある当局は、この取決めの以下の定めにかかわらず、付託事項において、この取決めに含まれる手続規則に追加し、又はこれと異なる手続規則を定め、適切とみなされるその他の事項を処理することができる。
4.付託事項の不通知
付託事項が3の期間内に仲裁の要請を行った者に通知されなかった場合には、その者及びそれぞれの締約者の権限のある当局は、当該期間の末日の翌日から30 日以内に、仲裁のための委員会によって解決されるべき事項の一覧を相互に書面で通知することができる。その期間内にこうして通知された一覧のすべてが、仮 の付託事項を構成する。
5に従ってすべての仲裁人が任命された日の翌日から30日以内に、仲裁人は、そのように通知された一覧に基づく仮の付託事項を改定したものを、両締約者の権限のある当局及び当該仲裁の要請を行った者に通知する。
両締約者の権限のある当局は、その改定された仮の付託事項を受領した日の翌日から30日以内に、それとは異なる付託事項を決定し、それを仲裁人及び当該仲 裁の要請を行った者に書面で通知することができる。両締約者の権限のある当局がその期間内にこの通知を行った場合には、この異なる付託事項が、事案に関す る付託事項を構成する。
両締約者の権限のある当局が異なる付託事項の決定及び書面による通知をその期間内に行わなかった場合には、仲裁人によって改定された仮の付託事項が、事案に関する付託事項を構成する。
5.仲裁人の選任
仲裁の要請を行った者が付託事項を受領した日の翌日から90日以内に、又は4が適用される場合には両締約者の権限のある当局が仲裁の要請を受領した日の翌日から120日以内に、両締約者の権限のある当局は、それぞれ一人の仲裁人を任命する。
二人目の仲裁人が任命された日の翌日から60日以内に、両締約者が任命する二人の仲裁人は、第三の仲裁人を任命する。
定められた期間内に第三の仲裁人が任命されない場合には、両締約者の権限のある当局は、他の二人の仲裁人のうち二人目が任命された日の翌日から80日以内に第三の仲裁人を任命するために、その任命方法についての決定を行う。
第三の仲裁人は、仲裁のための委員会の長としての職務を果たすものとする。
何らかの理由によって、仲裁手続の開始後に仲裁人を交代させる必要がある場合には、
上に掲げたこの5の手続に必要な調整を加えて適用する。
それぞれの締約者の権限のある当局は、自らが任命した仲裁人の報酬を決定する。第三の仲裁人の報酬は、その任命の前に、両締約者の権限のある当局が他の二人の仲裁人の報酬を考慮して決定する。
6.仲裁人の資格及び任命
仲裁人に任命される者は、協定の議定書6(b)(i)及び(iii)に規定された条件を満たす者とする。
加えて、仲裁のための委員会の長は、その国籍及び居所が事案に関して中立であると認められる者とする。
仲裁人は、その任命を確認する書簡が、当該仲裁人の任命権限を有する者及び当該仲裁人自身の両者により署名された時に任命されたものとする。
7.情報の通信と秘密保持
仲裁手続に至った事案に関連する情報の通信及び秘密保持については、協定の議定書6(b)(iv)の規定に従う。
8.適時の情報提供が行われなかった場合及び相互協議の中断があった場合
5にかかわらず、両締約者の権限のある当局が、協定第二十四条5に規定する2年以内に仲裁に付託された事項を解決できなかったことが、主として、事案に よって直接に影響を受ける者が適時に関連する情報を提供しなかったことに帰するものと判断した場合には、両締約者の権限のある当局は、仲裁人の任命をその 情報の提供の遅延に対応する期間延期することができる。
5にかかわらず、協定第二十四条5に規定する2年以内に仲裁に付託された事項を解決できなかったことが、相互協議の申立てを行った者からの要請により、同 条2の相互協議を中断していたことに帰する場合には、両締約者の権限のある当局は、仲裁人の任命をその中断に対応する期間延期することができる。
両締約者の権限のある当局は、その遅延及び(又は)中断に対応する期間を決定する。協定第二十四条1の規定に基づき相互協議の申立てを受けた権限のある当局は、仲裁の要請を行った者に対して、その決定した期間を通知する。
9.手続上及び証拠上の規則
この取決めと付託事項に従い、仲裁人は、付託事項に定められた事項を解決するために必要と認められる手続上及び証拠上の規則を採用する。
すべての仲裁人及びその職員に対する秘密情報を含めた情報の提供については、協定の議定書6(c)の規定に従う。
両締約者の権限のある当局が別の決定をした場合を除くほか、情報(10により、仲裁の要請を行った者又はその代理人から書面又は口頭で提供された情報を含 む。)のうち両締約者の権限のある当局が仲裁の要請を受領する前に入手できなかったものは、仲裁決定に関し考慮されない。
10.仲裁の要請を行った者の参加
仲裁の要請を行った者は、直接に又はその代理人を通じ、相互協議手続で許容されるのと
同等の範囲で、仲裁人に対して書面により自らの立場を表明することができる。
加えて、要請者は、仲裁手続において、仲裁人の許可を得て口頭で自らの立場を表明することができる。
11.実施準備
両締約者の権限のある当局が別の決定をした場合を除くほか、仲裁に至った事案の申立てを最初に受けた権限のある当局は、仲裁のための委員会の合議の実施準 備に対して責任を負い、仲裁手続の実施に要する運営人員を提供する。こうして提供された者は、手続に関する事項を、仲裁のための委員会の長に対してのみ報 告する。
12.費用
それぞれの締約者の権限のある当局が負担する費用については、協定の議定書6(b)(v)の規定に従う。
協定の議定書6(b)(v)の「その他の仲裁手続の実施に関する費用」には、11による実施準備のために生じた間接費用は含まれない。
仲裁の要請を行った者は、自らが仲裁に関与する費用(旅費並びに自らの見解の作成及び提示に関する費用を含む。)を負担する。
13.適用される法原則
仲裁人は、適用される協定の規定に従って、また、これらの規定に服しつつ、両締約者の法令の規定に従って、仲裁に付託された事項についての決定を行う。
仲裁人は、協定の解釈に関する事項を、1969年の条約法に関するウィーン条約第31条から第33 条までに採用された解釈の原則に照らし、経済協力開発機構(以下「OECD」という。)の所得と財産に対するモデル租税条約(2008年7月版)の序論 28から36.1までに述べられるとおり、定期的に改定されるOECD モデル租税条約の規定に対するコメンタリーに配意しつつ、判断する。同様に、独立企業原則の適用に関する事項は、OECD多国籍企業と税務当局のための移 転価格ガイドラインに配意して判断されるものとする。
また、仲裁人は、両締約者の権限のある当局が付託事項で明示的に挙げるその他の根拠を考慮する。
14.仲裁決定
仲裁決定は、仲裁人の単純多数決で決せられる。
仲裁のための委員会の決定は、英語で表記された文書で提示され、両締約者の権限のある当局が決定した場合には、依拠した法の出所及び結論に至った理由が示 される。いずれか一方の締約者の権限のある当局から要請があった場合には、仲裁のための委員会の長は、両締約者の権限のある当局に対して、当該仲裁のため の委員会における議論の概要を示す。
仲裁決定の先例としての価値については、協定の議定書6(e)が適用される。仲裁決定は、仲裁の要請を行った者及び両締約者の権限のある当局が公表の形式及び内容に関して書面により同意しない限り、公表されない。
15.仲裁決定の通知のために認められる期間
仲裁決定は、仲裁のための委員会の長が事案の検討を開始するために必要なすべての情報を受領した旨を両締約者の権限のある当局及び仲裁の要請を行った者に対して書面で通
知した日の翌日から180日以内に、両締約者の権限のある当局及び当該仲裁の要請を行った者に対して通知される。
この15の前段にかかわらず、最後の仲裁人が任命された日の翌日から60日以内に、又は最初の二人のうち後に任命された仲裁人が任命された日の翌日から 60日以内に第三の仲裁人が任命されなかった場合には最後の仲裁人が任命された日の翌日から40日以内に、仲裁のための委員会の長が両締約者の権限のある 当局のうち一方の同意を得て他方の締約者の権限のある当局及び仲裁の要請を行った者に対し事案の検討を開始するために必要なすべての情報を受領していない 旨を書面で通知した場合において、
(a) 当該仲裁のための委員会の長がその通知が送付された日の翌日から60日以内にその必要な情報を受領したときは、仲裁決定は、当該仲裁のための委員会の長が その必要な情報を受領した日の翌日から180日以内に、両締約者の権限のある当局及び当該仲裁の要請を行った者に対し通知される。また、
(b) 当該仲裁のための委員会の長がその通知が送付された日の翌日から60日以内にその必要な情報を受領しなかったときは、両締約者の権限のある当局が別の決定 をしたときを除くほか、当該仲裁のための委員会の長が後にその必要な情報を受領したときであっても、仲裁決定は、その情報を考慮に入れることなく行われ、 その通知が送付された日の翌日から240日以内に、両締約者の権限のある当局及び当該仲裁の要請を行った者に対し通知される。
予見不能の事象により、仲裁決定が定められた期間内に通知されないおそれがある場合には、両締約者の権限のある当局及び事案によって直接に影響を受ける者は、この15に掲げる期間を、合意した期間延長することができる。
16.定められた期間内に決定の通知が行われなかった場合
仲裁決定が15に掲げる期間内に両締約者の権限のある当局に通知されなかった場合には、両締約者の権限のある当局及び事案によって直接に影響を受ける者 は、180日を上限として当該期間の延長に合意することができる。これらの者が15に掲げる期間の末日の翌日から30日以内にその合意を行わない場合に は、両締約者の権限のある当局は、5に従って、一以上の新たな仲裁人を任命する。後者の場合には、新たに構成された仲裁のための委員会が、当初の仲裁のた めの委員会に代わり、この取決めに従って仲裁決定を行う。
17.仲裁決定の確定
仲裁決定の確定については、協定の議定書6(d)の規定に従う。協定の議定書6(d)の「この6の規定に従って決定される手続規則」とは、付託事項又はこの取決めに定める手続規則を意味する。
仲裁決定が協定の議定書6(d)に規定する理由のいずれかによって無効であるとされる場合は、仲裁の要請及び仲裁手続は、行われなかったものとする(ただし、7及び12を除く。)。
18.仲裁決定の実施
両締約者の権限のある当局は、仲裁に至った事案に関し相互協議の合意を行うことにより、仲裁決定の通知が行われた日の翌日から180日以内に、当該仲裁決定を実施する。
両締約者の権限のある当局及びその事案によって直接に影響を受ける者は、仲裁決定の通
知から実施までの期間を、合意した期間延長することができる。
19.仲裁決定が提供されない場合
14、15及び16にかかわらず、協定の議定書6(f)の規定が適用される場合には、両締約者の権限のある当局は、仲裁に付託されたすべての未解決の事項を解決した旨の通知を仲裁人及び仲裁の要請を行った者に対して書面で行う。
この取決めは、協定第二十四条5の規定が効力を生じることとなった後に、同規定に従ってなされる仲裁の要請に対して適用される。
両締約者の権限のある当局は、書簡の交換により、この取決めを修正し、又は補足することができる。
この取決めは、英文で二通作成され、2010年12月7日に香港で署名された。
日本国の権限のある当局のために
中華人民共和国香港特別行政区の権限のある当局のために