各国移転価格NEWS~サウジアラビア~
サウジアラビアは石油のみに依存した経済から、収益基盤の多様化を目指しているため、GAZT(租税庁)を通して租税徴収をますます重視してきています。こうしたなか、G20のメンバーとして、OECDのBEPS行動計画を支持してきました。2018年9月に税源浸食と利益移転を防止する租税条約を実施するために、多国籍条約に署名するなど、BEPS行動計画の一部として国別報告書を実施するための法整備を積極的にすすめてきました。
2018年12月にGAZTは移転価格法案を公表し、2019年2月15日にFAQsとともに移転価格法が成立しました。同法は会計年度が2018年12月31日までの全ての関連者間取引に適用されるとされています。ここで「関係者」とは、ある事業者が別の事業者の経営判断に影響力を有していること、2つ以上の事業者が共通の管理下にあること、同グループの人物によって管理されていること、と定義されています。税法とは異なり、“コントロール”の定義をオーナーシップ=議決権の所有、とは結びつけておらず、むしろ、実体(substance)に基づいていて定義されています。したがって、たとえ共通のオーナーシップがなくとも、2つ以上の事業体が「関係者」であることもあり得えます。
さて、今回公表された移転価格法では、移転価格文書要求はBEPS行動計画13に沿ったもので、3層構造の文書化制度が導入されました。納税者が所属する多国籍企業の事業活動や移転価格ポリシーが記載されるマスターファイル及び、納税者の関連者取引に関する詳細の情報を含むローカルファイルは、GAZTからの要求に従い、保管し、利用可能にしておくことが義務付けられています。たとえば、GAZTからの要求があれば、ローカルファイル、またはその一部でも、要求のあった7日以内、あるいはGAZTにより示された日程内に提出しなくてはいけません。国別報告書については、グループの連結収入が32億サウジリアル(およそ7億5,000万ユーロ)を超える多国籍企業は、会計年度の最終日から120日以内に税務当局に、所定の用紙で国別報告書の届出を提出する必要があります。国別報告書は、多国籍企業の会計年度の最終日から12か月以内に提出されなくてはなりません。2018年より前に行われた取引の移転価格文書が要求される可能性もあり、その場合、納税者はGAZTに要求された文書を提出するまでに30日間認められます。
移転価格文書要求については、法案の段階では、GCG(湾岸協力会議)諸国の企業は、ザカートと呼ばれるイスラム法に定められた救貧税に従うため、移転価格の文書要求には従わない、ともいわれていましたが、今回の最終法では、湾岸協力会議加盟の企業や恒久的施設、外国企業の支社を含むすべての納税者にかかる移転価格法の適用が明示されました。
今回、移転価格文書要件を遵守しなかったことに対するペナルティについては、明示されていません。しかしながら期限内に提出しない、所定の用紙を使用しないなどの場合は、所得税法に基づいたペナルティを受けることになります。また今回、サウジアラビアがAPAs(事前確認)を始めることには言及していませんが、適用可能な独立企業間価格幅を明示しています。
今回の移転価格法の発令は、サウジアラビアの税制の転換の積極的な取り組みをあらわしているといえるでしょう。GAZTは、移転価格ポリシー、事業活動、サプライチェーンアレンジメントや、国内企業間取引を引き続き精査するでしょう。それゆえ、移転価格法に従うためにも、文書化や適切なグループ間取引のベンチマークも重要となってきます。今後のサウジアラビアの経済発展を模索するなか、GAZTは、国内企業間取引にも移転価格法の適用を広げていくと思われ、ますます法整備が進むことでしょう。