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チェック! ローカルファイル(その4)~特殊要因調整は、ほんとうに「特殊」?~

ローカルファイル作成基準の明確化と周知がもたらすもの

日本の会社が親会社である場合、移転価格の検証は、海外の子会社で行われるケースが多いでしょう。その際、移転価格算定方法が取引単位営業利益法(TNMM)であれば、適正利益率は、通常、黒字と考えるべきです。ところが、海外子会社の営業損益が、ずっと僅少、あるいは、ずっと赤字というケースが意外に多く見受けられます。

ローカルファイルに該当する文書作成の必要性は、ローカルファイルの整備がはかられた平成28年度税制改正以前にもあるにはありました。ただ、明確な金額基準がなかったため、今のように徹底して進められてこなかったのです。会社によっては、海外の税務当局の「強権」ぶりを評価し対応をはかってきた向きもあったでしょう。そもそも日本の移転価格税制からみれば問題がないことから、あえて何もしてこなかった、という会社もあったかも知れません。

しかし、誰もが、わが国の移転価格文書の作成基準を知り得、海外の税務当局とて例外ではない現状下においては、会社のみなさんは、これから海外の税務当局は、「当然、ローカルファイルは日本で作成している」との感覚をもって、海外子会社の税務調査を行ってくると考えるべきでしょう。つまり、日本で作成したローカルファイルの提出を、海外の税務当局が求めてくるということです。

みなさんの会社の中には、来年になれば移転価格文書の作成義務が生じて3年目となる会社もあることでしょう。今後、連綿とローカルファイルの作成を要することを考えれば、営業損益の赤字の放置は決して得策でないことは、おわかりいただけただけることでしょう。

特殊要因調整

仕事柄、海外で作成されたローカルファイルを見せていただいたことがあります。そうしたものの中には、海外子会社がずっと赤字であるため、赤字の原因を「特殊要因調整」として、差異調整が行われているものがあります。

あるとき、赤字の原因は、リストラ費用と、期中に日本人親会社からの出向者受け入れが増え、その給与負担増が「特殊要因」だと分析されているものがありました。拝見した瞬間、正直私は、この2つは特殊要因にあたらないのではないか、と思ったものです。

まず、損益計算書の表記上日本風にいえば、営業損益は、事業活動に関して発生する損益です。ですからリストラ費用が一時的、臨時的であれば、本来は、特別損益の内訳科目となるでしょう。それでも数年間に限り営業損益の内訳科目として取り扱うのであれば、まあ片目をつむって、善しとするのかも知れません。

しかし、日本人出向者に対する給与負担が「特殊要因」に該当するとなると、さすがにこれは、そうでないでしょう、と反論したくなります。会社は、日本人の給与(報酬)は、海外の現地で雇用している人に比べると相当程度割高であることと、そういう人材が、期中に複数名増員したことを理由に「特殊要因」だと整理していたのです。

しかし、ここには大きな問題があります。端的にいえば、高い給料(報酬)を払っている日本人のパフォーマンスの評価が欠落している点です。

高い給与(報酬)の日本人を雇っている以上は、それに見合う「高い」貢献が期待されて当然です。その分を、会社はいったいどう見ているのか?――という議論を惹起させます。私が海外の税務担当者なら、そんな高い給料をわざわざ払っても、連年赤字であるのなら、そもそも赤字の原因は、無能な日本人に対する過大給与(報酬)であり、それ自体が移転価格上の問題ではないのか、と議論を挑むことでしょう。

私のそうした思考の背後には、移転価格算定方法で「比較法」の1つであるTNMMがあり、これは、機能面を重要視したものだからです。仮に、コストと機能との相関関係を説明できないのなら、一方のコストのみを捉えて「特殊要因」ですといわれても、それは、「いいとこ取りではないでしょうか?」と、ついつい思ってしまうからです。

特殊要因調整の1つとして、為替レートの変動を挙げる会社もあります。しかし、それも、「比較法」を用いている以上は、比較対象取引の候補となる第三者の取引自体も同様の環境下でビジネスを行っているとの「前提」だけに、「本当に特殊要因なのでしょうか?」との疑問になってしまうのです。

つまり、特殊要因調整の事項は、赤字や適正利益率レンジから外れることの理由になり得ない可能性が大だということです。

「特殊」も連年続けば「常態」と化す

わが国の移転価格調査で、会社がローカルファイルにおいて、特殊要因をもとに調整を行っていたとしても、それがすんなりと認められることは、あまりないといってよいでしょう。

その理由は、比較法の世界で比較対象取引を導き出している以上は、他社も条件は同じであり、「特殊」ということは考えづらいという発想が本質的にあるからだと思われます。こうした考え方は、『OECD移転価格ガイドライン』におけるロケーションセービングの議論と通じるところがあります。

仮に、海外の子会社が、あるいは、日本の子会社が、以上のような何らかの「特殊要因」を理由に適正利益率レンジから逸脱しているとしても、そういう「言い訳」が通じるのは、せいぜい2年間でしょう。それを超えれば、「特殊」としていたことは、もはや「特殊」ではなく、普通(常態)のことでしょ、と税務当局は捉え、主張してくることでしょう。つまり、ローカルファイルの全否定です。

毎年毎年、同じ「特殊要因」で、赤字や少額利益の原因分析をしてみたところで、それはもはや言い訳としか捉えられなくなることを念頭に、次の対応策を考える時期に差しかかろうとしているのです。

皆さんの会社のローカルファイルは、どうでしょうか? 対応は、十分でしょうか? 

(本シリーズ続く)