ニュース
コラム

チェック! ローカルファイル(その7)~新型コロナウイルスにどう対応するのか?~

新型コロナウイルス?

本シリーズの最終回は、新型コロナウイルスについてです。どうしてローカルファイルでウイルスなんだ?といぶかしく思われる方もおいででしょう。決してふざけているわけではありません。

新型コロナウイルスは1つの例であり、今回扱うのは不況経済下、いわゆる”downturn economy”に対する移転価格の対応の問題です。

この問題が大きくクローズアップされたのは、2008年9月のリーマンショック後においてでした。

移転価格で扱う独立企業間価格は、そのほとんどのケースにおいて、民間が提供するデータベースから財務諸表数値を得て、過去の数年分のデータを加工して適正利益率を算定します。つまり、「過去」の数値を、「今」の事業年度に用いているわけです。

リーマンショックにより、経済は、一気に断層を形成するように下方にストンと落ちました。エコノミストによれば、リーマンショックは100年に1回起きるか起きないかの経済の激変でした。

そのため、2008年9月以前の財務データを用いた適正利益率は高すぎて、それ以降の低い実績には用いることができなくなったわけです。とりわけ、事前確認のように5年間などの期間で、一定の適正利益率レンジを決めているような案件では、当局・納税者ともに苦慮することになりました。

いまの状況はリーマンショックに匹敵するのか?

この1年間の経済状況を概観すれば、日本国内では、昨年10月の消費税率を8%から10%に上げたことで、2019年10月から12月までのGDPは年率換算で7.1%減り、5四半期ぶりのマイナス成長となりました。もともと2020年の1月から3月期は、消費の持ち直しによりプラス成長に転じると市場関係者の多くは見ていただけに、新型コロナウイルスの感染拡大は経済に一気に冷や水を与える結果となっており、一大転機と言えるでしょう。

実際、株式市場では、1月下旬の今年の高値から2カ月たたないうちに3割弱も下がっています(3月19日現在)。日本の多くの会社は3月決算ですから、この状況が続けば、3月決算の会社は、多額の株式評価損を計上せざるを得ず、企業利益に大きなインパクトを与えることにもなりかねません。

日本銀行の黒田東彦総裁は3月18日の参議院財政金融委員会で、日銀が保有する上場投資信託(ETF)について、「現時点での日経平均株価を基に試算すると、含み損は2兆~3兆円になる」と述べており、日経平均が1万9500円の水準を下回ると、ETFの時価が取得価格を割り込み「含み損」が発生するとの試算を示しています。もはや国レベルでの重大な問題と化したことは間違いないでしょう。

遡ること3月10日、麻生太郎財務相は10日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大による金融市場の混乱について、リーマンショック級の大規模な景気悪化が起きているわけではないと述べていますが、本当にそう捉えてよいのかは、今後発表される経済統計値が明らかにしていくことでしょう。

こうした現状に加え、昨年4月から開始している事業年度の会社にとっては、日米貿易摩擦にともなう日本企業への影響も大変深刻であり、3月18日、財務省が発表した貿易統計(速報)によれば、2月の中国からの輸入は前年同月比で47.1%減となっており、減少幅は、1986年8月(47.3%)以来の大きさです。これは、グローバル・サプライ・チェーンの重要な一角が寸断されていることを示し、日本国内の産業にも重大な影響を及ぼしています。

さて、移転価格の検討を行う際の「不況経済」の捉え方は、なにもリーマンショック級か否かという言葉の定義ではなく、あくまでも過去の適正利益率と現状との乖離の程度で判断されることになります。

どのようにローカルファイルに取り込めばよいのか

移転価格の適正利益を決定する経済分析は、あくまでもゴーイング・コンサーンを前提に、一定のトレンドを加味して決定されます。経営学者のK・ガルブレイスが説明したような不連続な経済――「不確実性の時代」下の経済を前提にはしていません。

そのため、仮に、今事業年度の実績値が、適正利益率レンジを外れても、移転価格上の問題は生じない公算も大だということです。

では、果たしてそう考える根拠を、何に置けばよいのでしょうか?

1つは、次の租税特別措置法通達です。

(比較対象取引の選定に当たって検討すべき諸要素等)
66の4(3)-3 措置法第66条の4の規定の適用上、比較対象取引に該当するか否かにつき国外関連取引と非関連者間取引との類似性の程度を判断する場合には、例えば、法人、国外関連者及び非関連の事業の内容等並びに次に掲げる諸要素の類似性を勘案することに留意する。
(1) 棚卸資産の種類、役務の内容等
(2) 売手又は買手の果たす機能
(3) 契約条件
(4) 市場の状況
(5) 売手又は買手の事業戦略
(注)

  1. (省略)
  2. (4)の市場の状況の類似性については、取引段階(小売り又は卸売り、一次問屋又は二次問屋等の別をいう。)、取引規模、取引時期、政府の政策(法令、行政処分、行政指導その他の行政上の行為による価格に対する規制、金利に対する規制、使用料等の支払に対する規制、補助金の交付、ダンピングを防止するための課税、外国為替の管理等の政策をいう。)の影響等も考慮して判断する。
  3. (省略)

ここでは、比較対象取引選定は、国外関連取引と比較対象取引との市場の状況を加味するようにと述べ、同一であることを念頭に置いています。ですから、現在の国外関連取引が、ローカルファイルを作成した当初の状況と異なれば、それにより求められた適正利益率レンジと乖離しても問題にならないと言えるでしょう。

いま1つは、OECD移転価格ガイドラインの後知恵課税の禁止です。

後知恵課税の禁止とは、納税者が、移転価格にかかわる何らかの意思決定や判断を行う際には知り得なかった諸事情を度外視して、税務当局が、現在あるいは事実が判明した段階の結果を加味して、国税当局に、移転価格の適否の判断を行い課税することを禁じるものです。

例えば、次のパラグラフが該当すると考えられるでしょう。

3.74 取引年度の後続年度のデータも、移転価格の分析に関係するかもしれないが、後知恵を用いることを回避するよう注意しなければならない。(省略)

ちなみに、わが国の移転価格事務運営要領(指針)は、「基本方針」として1-2⑶において、次のとおり規定しており、国税当局の執行にあたっては、OECD移転価格ガイドラインを参考にし、適切な執行を求められていることから、国税当局は、上のパラグラフなどを斟酌しなくてはならないと言えるでしょう。

(基本方針)
1-2 移転価格税制に係る事務については、この税制が独立企業原則に基づいていることに配意し、適正に行っていく必要がある。このため、次に掲げる基本方針に従って当該事務を運営する。
  (省略)
(3) 移転価格税制に基づく課税により生じた国際的な二重課税の解決には、移転価格に関する各国税務当局による共通の認識が重要であることから、調査又は事前確認審査に当たっては、必要に応じOECD移転価格ガイドラインを参考にし、適切な執行に努める。

留意事項

今回の新型コロナウイルスの関係などで、仮に、国外関連取引の実績値が、ローカルファイルにおける適正利益率レンジから外れた場合には、上述した考え方から、当該事業年度の経済状況は、いわば「異常」であり、移転価格で扱う正常な状況でなかったと分析することになるでしょう。

ただし、その場合においても次の諸点などに注意を払う必要があります。

国外関連者側を検証対象としている場合、果たして国外関連者が存する国や関連するマーケットが、新型コロナウイルス等の問題により影響を受けていた(いる)との傍証や疎明資料が得られるかです。

具体的には、例えば、月別の売上高や売上原価、販管費の内訳項目に、諸問題が勃発してから係数的に「異常」であることを示す材料があるかです。あれば、それらを集め、ある程度の分析を行っておく必要があるでしょう。月間や四半期の売上高、例えば、原価率や売上高販管費率など財務分析数値の異常値を把握し、国税当局の調査があった場合に、それらを示すことが可能なようにしておくことが必要です。

皆様の中には、特殊要因分析を行うのはどうだろうか、と考えられる方もおいででしょう。ただ、それには、ある程度のノウハウが必要となることから、レンジを外れたインパクトと分析に要するコストとを比較考量して、考えるべきではないでしょうか。

あくまでも想定の域を超えませんが、今回のような米中貿易摩擦、それにともなう関税競争、あるいは、新型コロナウイルス関連の不況経済の問題などは、それ自体、十分考慮すべき重大な経済環境の変化であることから、国税当局も何らかの配意・考慮を行い、仮にレンジから外れていたとしても、それらの事項の分析を加味してくれるものと、現段階では思料いたしております。

なお、令和3年期用のローカルファイルについては、今後の経済の状況を見ながら、適正利益率レンジのアップデートなどをはかっていかれるのが無難な対応ではないかと考えております。

最後に

さて、本シリーズは最終回となりましたが、皆様のお役に立てるよう、また折を見て同様のテーマについても本サイトを通じて、情報発信に努めて参りたく存じます。

引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。

(本シリーズ終了)