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Downturn Economy下の移転価格問題への対応のしかた(第1回)

これから扱う問題

これから数回にわたり扱うテーマは、「Downturn Economy」です。すなわち、「不況経済」、その下での移転価格をどう考えていけばよいかです。

3月決算の会社であれば、すでに国外関連取引の適正利益率などを決定し、4月からの新年度を迎えられたかも知れません。しかし、今後予測される経済の落ち込では、当初決定した適正利益率の水準は、到底達成できない。黒字どころか、赤字に転落することもあり得る。はたして、どう対応すればよいのか?--というのが、不況経済下の移転価格の問題です。

先のシリーズ「チェック! ローカルファイル」の最終回(その7。2020.03.24ホームページ掲載)で、「新型コロナウイルスにどう対応するのか?」と副題をつけて説明した内容を、少し掘り下げ考えてみたいと思います。

現状

まさに今、世界規模で新型コロナウイルスと戦っている最中です。まずはみなさん、ご自身のお身体をご自愛ください。

その傍ら、会社にお勤めの方は、はたしてこれからどうなっていくのか、と頭を悩ましておいでではないでしょうか?

悩みもいろいろだとご推察いたします。3月決算の会社の経理担当の方々であれば、決算説明会にむけ、事業計画の再見直しをはかっておいでかも知れません。営業担当の方は、予測を立てようにも先の見通しが立たず苦慮されておいででしょう。

グローバルビジネスを展開されている企業にあっては、各国・地域の動向がまだまだ読めないというのが正直なところではないでしょうか。

そんなところ原油価格が暴落しています。世界需要が低下し、なかでも航空機が飛ばないことで大打撃に追い打ちをかけているようでもあります。

ただ、そんなところ、「大きな声では言えないんだけど…」と逆に好景気となっている企業もあることでしょう。雑誌『週刊 エコノミスト』(4月28日号)では、首都封鎖で浮かぶ企業・沈む企業なるセンセーショナルなタイトルを冠し特集を組んでいます。「首都封鎖」の真偽は別としても、実態としてそのような企業も現に出てきているということでしょう。

移転価格の立ち位置

「移転価格」は、あくまでも「平時」を想定しています。第三者取引価格である独立企業間価格は、「通常」を前提としていると言い換えることもできます。Routine Profitと呼ばれるものです。

みなさんの会社がローカルファイルを作成されておいでであれば、そこで用いられている移転価格算定方法の7-8割は、取引単位営業利益法(TNMM)と考えられます。TNMMでの独立企業間価格の算定は、民間のデータベース会社が提供する財務データを用います。そこから過去何年かの財務データを抽出して、適正利益率(レンジ)を求めています。例えば、2021年3月期に用いる適正利益率であれば、少なくとも2年ほど前から3年-5年分遡った過去データをベースに算定されていることでしょう。今日のように経済が激変した状況では、そのような「過去」を「平時」や「通常」として、もはや用いることはできないでしょう。

ただ、すべてがすべて、そうだとも言い切れないのです。

移転価格算定方法から考える

この原稿を書いている今まさにドバイ原油価格が急激に下落しています。21年振りに安値を付け、4月22日付け京都新聞「社説」では、「売り主が、買い手にお金を払ってまで商品を引き取ってもらうという異常事態が現れた。週明けのニューヨーク原油先物相場は、指標となる米国産油種の5月渡しが、上場以来初めて、マイナス価格で取引された。原油の需要減に伴い在庫が急増して、貯蔵能力の限界にまで近づいている。このため、買い手がほぼ不在となってしまった。」と。社説がいうとおり、まさに「異常事態」なわけです。

もしみなさんの会社が、原油価格などの市況価格をベースとした価格比準法(CUP法)を用いているのであれば、すこし対応が異なってくることでしょう。なぜなら、市況は今の価格(相場)をビビットに扱っているのですから、如実に価格差が把握できます。ローカルファイル作成時に××円としていても、現在の相場が△△円と明白であれば、当初と実績とに乖離があっても説明がつけられます。分析も比較的容易でしょう。

CUP法を用いるということは、「価格」そのものを取り扱っているわけですから、移転価格の問題ズバリが把握できるのです。

厄介なのは、「連動」や「複合」要因が絡み合う事業や産業のケースです。

炭素繊維の製造販売事業を例に取り、いっしょに考えてみましょう。炭素繊維の素は石油です。石油を精製しアクリロニトリルを取り出し、これを重合して原材料をつくります。その後、スパゲティ状に加工し、さらに毛髪よりも細長く伸ばしていき炉で焼き炭化させそれぞれの用途にマッチするように再加工を施すのです。炭素繊維は、自動車、航空機、スポーツ・レジャー、繊維、風力発電用の風車、など各産業分野で使われていまが、製造コストの構成を考えれば、原材料のアクリルニトリルと電気代が占める割合が高いのが通常です。

需要面を見た場合、自動車、航空機、スポーツ・レジャーなどの産業は、このコロナ禍で大打撃を受けていますから、炭素繊維の提供事業者にも相当な影響があるでしょう。ただ、生産コストだけを見れば、現状、原油価格は低下し、それにともない電気代は安くなると予想されていますから、それらは製造コストの低下に働くでしょう。一方、需要の減少は生産量の減少となり、売上金額の減少となります。ただ、コスト低減も加味すると、結果たる営業利益は、どのようになるかは不明となります。

これらを簡単な算式で示せば、次のようになります。

1式:(売価×数量)-(費用×数量)-販管費=営業利益
2式:(売価×数量↓)-(費用↓×数量↓)-販管費=営業利益

1式はコロナ禍前の式です。2式は今回のコロナ禍を加味したものです。2式をご覧ください。仮に、売価と販管費をコロナ禍前後で不変とすれば、左辺の第1項と第2項はトレードオフの関係にあります。ただし、その相関度合いは一概にはいえません。そこを分析する必要があります。

より厳密に捉えれば、2式の売価もコロナ禍後の市場の需給バランスによって変化してきます。経済学が教える、需要の価格弾力性いかんに依存するわけです。また、2式の第2項はシンプルに1つのかっこで示していますが、本来は生産要素ごとの束(集計)に他ならないため、それぞれの生産要素の「費用×数量」の総和と捉え直し、それら生産要素ごとの分析も行う必要があるでしょう。

移転価格では、以上のように要因分析をしていくアプローチがあります。

コロナ禍で影響を受ける業種・産業なのか

そこで今後は、みなさんの会社の産業が、コロナ禍の影響を受けているのかの正確な分析が必要になってくることでしょう。上の炭素繊維の例であれば、自動車、航空機、スポーツ・レジャー、繊維の各産業では購買需要が激減したとしても、風力発電の風車の需要には影響がなく、(実態は不明ですが)通常業務を行っていることもあるかも知れません。そうしたセグメントを扱う企業やその分野に特化した企業にとっては、今のコロナ禍は、ビジネス上あまり影響がないことになるでしょう。

他の例として、製造過程でファクトリー・オートメーション(FA)が進んでおり、巨大な工場であるものの、実動員はオペレーションを行う数名、数十名程度の要員で足り、「3密」の状態など無縁の製造現場もあることでしょう。例えば、半導体加工、食品、化学薬品の産業などにはそうした工場が現に多くあります。こうした企業にとっては、得意先の需要があれば、コロナ禍は問題とならない場合もあり得ます。

このようにまず手始めとして、みなさんの企業が活動されている産業、あるいはセグメントについて、コロナ禍の影響を受けているか否かを検討しみましょう。漠然ながら影響がありそうだと認められたならば、次に、式で示したようなマイナスあるいはプラスとなる連動や複合要因ごとに区分し分析をスタートしてみることを、お勧めします。

最後に

以上、いろいろと書きましたが、これらの分析作業は決して急いで行う必要はありません。この混沌とした状況がひと段落し、ビジネスが尾に就き余裕ができたころに着手されても、まったく問題はありません。その点、どうぞご安心ください。

(本シリーズ続く)