Downturn Economy下の移転価格問題への対応のしかた(第2回) | 移転価格.com | 国際税務専門の税理士事務所|信成国際税理士法人
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Downturn Economy下の移転価格問題への対応のしかた(第2回)

借入にまつわる移転価格

コロナ禍における最大の問題の1として、資金繰りが挙げられるでしょう。今回は、これがテーマです。

仮に、海外の子会社が資金繰りでひっ迫しており、それを日本の親会社が支援する場合には、大きく2つの方法が考えられるでしょう。1つは直接貸し付ける方法であり、いま1つが債務保証の方法です。

わが国の移転価格税制の取扱いの現状

わが国の移転価格税制上、前者の直接貸し付ける方法については、すでに通達が出ています。ですから、目新しい問題とはいえないでしょう。

しかし、後者の債務保証の方法については、わが国では、直接の規定や具体的な通達はありません。ちなみに、日本で市販されている移転価格税制を扱う書籍等においては、債務保証も移転価格税制の対象取引であると記載されていますが、実務の上で債務保証について課税を受けるケースは、これまでほぼ皆無であったのではないでしょうか。そうした実態の「理由」については、紙幅の都合上ここでは取り挙げませが、今回はこの債務保証がテーマです。

さて、今回これを取り上げるのは、他にも理由があります。それは、こうした実態が覆りそうな「事実」がすでに生じているからです。

金融取引に関するOECDの動き

では、どんな事実がすでに生じているのでしょうか?

それはOECD(経済協力開発機構)の動向です。OECDは、本年2月11日、「金融取引に関する移転価格ガイダンス」(以下、「ガイダンス」といいます。英文のタイトルは、Transfer Pricing Guidance on Financial Transactions: Inclusive Framework on BEPS: Actions 4, 8-10です。)を公表しました。これは、英語の副題が示すとおり、2015年にひとまず最終報告が行われたBEPSプロジェクトのうち、その時点では結論が出ず、いわば宿題になっていた行動計画4と、8から10に関するものです。2018年7月、叩き台となる‘discussion draft’が公表され、その後の議論の結果、今回、ガイダンスとして形が成されたのです。

公表されたガイダンスは、その内容もさることながら、大きな影響力があると考えられます。なぜなら、現在公表されているOECD移転価格ガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます。)が、今回の内容により改訂されることが決まっているからです。それらを簡記すれば、次のとおりです。

ガイドラインへの影響

これまで第9章までであったガイドラインに、第10章が新設されます。項目としては、

  • 財務機能
  • 債務保証
  • キャプティバ保険


などです。また、ガイダンスの一部は、第1章のパラグラフ1.106以降(「D.1.3. 資産又は役務の特徴」の手前)に挿入されることにもなっています。

わが国の移転価格税制への影響

ガイダンスの影響はそれだけにとどまりません。近年のわが国の移転価格に関する税制改正では、 ガイドラインの改訂内容がほぼそのまま取り込まれるかたちで行われているからです。

そのため、おそらく来年の6月までには移転価格の通達等が改正されることになるでしょう。

ですから、その準備をはかる意味からも、今回ここで取り上げる債務保証を行う場合には、以下の内容に配意する必要があるものと考えます。

債務保証(委託)取引の取扱いのポイント

今後、ガイドラインには、「借入者にとり、債務保証は借入条件に影響を与える可能性がある。例えば、保証により、借入者がより多くの資金を得る可能など、保証を受けた当事者がより有利な金利を得ることを可能にする」(ガイダンス10.157。原文英語)との認識が示されています。そのため、借入者は、保証を行う親会社等に対して、何らかの対価支払いをすることが必要になるでしょう。

その際の計算方法については、ガイダンスでは、「イールド・スプレット・アプローチ」と「コスト・アプローチ」などが示されています。大変テクニカルな部分であり、ここでは内容を詳述しませんが、そのような計算方法や発想に従い、保証料たる独立企業間価格を算定することになります。この点が、第1のポイントです。

第2のポイントは、仮に国外関連者Sが海外の金融機関から借り入れ、親会社Pが海外の金融機関に保証をしていた場合に、だからといってSの信用力がゼロだとして捉えるのではないとうことです。例えば、Pが主宰する多国籍企業グループにSが存在していた場合には、一定のグループシナジーとしての信用力がSにはあると捉えるということです。

具体的には、日本のPの信用格付けがAAAである場合で、Sが当該企業グループのメンバーでなかったならば、格付けはBBBであるところ、当該企業グループのメンバーであることからAになっているのなら、そのAの格付けを是として、そこから保証料の負担を考えることになるわけです。

つまり、Sの格付けがAAAとなっていれば、AからAAAとなる部分の保証料を独立企業間価格として算定することになります。決してBBBからAAAへの保証料の算定ではないというわけです。

この発想の背景には、BEPS行動計画8-10の最終報告書を受け2017年版OECD移転価格ガイドラインにおいて、グループシナジーは無形資産ではないとの整理を行ったことに由来しているのではないかと思料されます。つまり、多国籍企業グループとして一定のシナジー効果があるのであれば、それを是とし(表現をかえれば所与として)、独立企業間価格たる保証料を考えるというスタンスです。

今後の対応

コロナ禍の不況経済下においては、グループ企業の資金繰りのために保証を行うケースも多いことでしょう。そのような場合には、今のうちから上の内容に配意しておくことをお勧めいたします。

なお、国外関連者への貸付金については、次回以降、本シリーズで取り扱う予定です。

(本シリーズ続く)