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移転価格の視点から考えるデジタル課税の議論 その2 ~独立企業原則から世界的定式配分方式へ?~

議論の経緯と現状

このテーマでは、2019年6月12日の本ニュースコラムでも取り上げたところです。現状は、10月9日、OECD事務局が、新たなデジタル課税に関する提案(事務局案)を行い、11
月-12月、実務家の意見聴取(パブリックコンサルテーション)が行われ、それらを反映した解決案が、2020年1月に報告・公表される予定です。その後の議論を経て、2020年末までに、いよいよOECD、G20財務大臣・中央銀行総裁会議による採択によってデジタル課税の方法が確定する目途となっています。

しかし、すでにフランスはデジタル課税を単独で行っており(売上高の3%課税)、それに対して米国・トランプ大統領は報復関税を課すとの強硬姿勢を示しています。

また、12月4日付日経新聞が、「英国は対象ビジネス域内での売上高に対して2%の課税を提案している」と報じるように、フランスやイギリスばかりか、「オーストリア、イタリア、トルコのデジタル課税計画」があるなど、事務局案を含めたOECDによるデジタル課税の議論が、今後はたして思うように進むかは予断を許しません。

そのような状況もありますが、本稿では、事務局案のインパクト、とりわけ移転価格の分野に与えるインパクトに焦点を絞り、解説をしたいと思います。

独立企業原則を捨て定式配分方式を提案

デジタル課税の議論に限らず、これまでOECDが移転価格を論じる際に議論の土台にどっかとあったものは、「独立企業原則」に他なりませんでした。これは、移転価格のバイブルと呼んで相応しい『OECD移転価格ガイドライン』(ガイドライン)にも明記されているものです。

独立企業原則は、国外関連取引を非国外関連者間取引に引き直し、機能とリスクとに見合った利益を国外関連取引の当事者に配分する原則と称してよいでしょう。

これに対して、世界的定式配分方式は、国外関連取引における個別事情、すなわち、機能リスクを無視した、機械的な配分(フォーミュラ)による配分であり、現行のガイドラインはこれを完全否定しています。具体的には、「C 独立企業原則によらないアプローチ:全世界的定式配分」として取り上げ、パラグラフ1.16から1.31で、いわば悪口を言い続けているのです。

ところが、デジタル課税の事務局案では、こんなに悪口を言い続けてきた相手を仲間に入れるというのですから、大問題なわけです。昔ばなしの『桃太郎』に例えるなら、桃太郎が鬼ヶ島に鬼を退治にでかけたかと思ったところ、いきなり鬼と握手なんかして、仲良くなっちゃったわけです。

同行していたイヌ、サル、キジは、驚きます。
イヌがいいます。「これって、これっきりのこと?」
すかさずサルが、フォローします。
「そんなことないだろ。俺たち、ずっと桃太郎さまを信じて、ここまでついてきたわけだからさ」
そんな会話をじっと聞いていたキジが、空中で羽ばたきながら、
「じゃあなに、鬼からまんまとお宝を分捕る口実として、今回限りってこと?」
「でも、そんなにうまくいくかね。あれもこれもってな具合にはなぁ。逆に桃太郎さまこそが、鬼に丸め込まれてしまうんじゃないの?」と、イヌがワンワンと吠えながら警告します。
「やめてくれよ」たまりかねたキジが地面に舞い降り、
「で、オレなんかの羽までむしり取って、しまいには焼き鳥にされて、鬼がくっちまおうなんて算段じゃ、ねぇだろうなぁ!」

これから問題になるのは、定式配分方式が、はたしてデジタル課税の一部分の計算方法に限った今回限りの対応なのか、ある程度、異業種にも用いられるのか、ということでしょう。

問題の本質

OECDでは、2019年1月にそれ以前の議論の叩き台となったいわゆる「ポリシーノート」を受け継ぐかたちで、第1の柱(Pillar)と第2の柱を示しました。

第1の柱とは、デジタル化された経済のより広範な課題に対処し、課税権の割り当てに焦点を当てた議論です。第2の柱とは、BEPSプロジェクトが終了した2015年10月以降、なおも残るBEPS問題に対処することです。とりわけ、タックスヘイブンなどの低課税率国への投資を、どう抑制させるかが問題の1つとしてあります。

第1の柱に対しては、これまでの国際課税のルール「PE(恒久的施設) なければ課税なし」を、新たな課税物件(ネクサス Nexus)として、「重要な経済的拠点」(Significant Economic Presence)なる判断基準を拠り所として、新たな国際課税のルールに繋げようというのです。

このような背景から、式配分方式が打ち出されたわけです。これにより、(先の本ニュースコラムでも取り上げた)売上高に一定率の一律課税をするという、いわば無謀な案を排斥しようとしているのです。忘れていけないのは、デジタル課税の議論は、あくまでも第1の柱を解決するための議論であり、施策であるという点です。

ただ、事務局案は、これだけに終わろうとはしていません。第2の柱の解決も、一定程度視野に入れた、実に野心的な案でもあるのです。

なぜなら、定式配分方式を採用するとなれば、デジタル課税の対象となるプラットフォーマー企業には、一定の利益率のみなし課税がされるからです。これでは、わざわざ低課税率国に会社を設立させるインセンティブは働かなくなります。

ただ、事務局案は、もろ刃の剣といえるでしょう。イヌ、サル、キジが案じていたように、デジタル課税に限ったことなのか、他の業種にも適用となるのか、定式配分方式は今回に限ったことなのか、そして何よりも、一度、定式配分方式を採用することで、これまで金科玉条のごとく守ってきた「独立企業原則」が損なわれないかの大問題があるからです。

「大きな船の沈没も小さな穴から」の例えよろしく、移転価格における独立企業原則の扱いの行方が、今後、いっそう注目されるところです。

以 上