フィリピン国税庁(BIR)が移転価格文書を義務化~金額基準なしに戸惑いの声 | 移転価格.com | 国際税務専門の税理士事務所|信成国際税理士法人
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フィリピン国税庁(BIR)が移転価格文書を義務化~金額基準なしに戸惑いの声

概要

フィリピン国税庁(BIR: Bureau of Internal Revenue)は、この7月8付けでBIRの通達であるRevenue Regulation No.19-2020を発遣しました。これによれば、申告書を提出する際に、移転価格文書等を添付することになります。フィリピンに進出している事業者は、ご注意ください。

BIRの通達はこちら☞ https://www.bir.gov.ph/images/bir_files/internal_communications_1/Full%20Text%20RR%202020/RR%20No.%2019-2020.pdf

対応に混乱

通達によれば、通達の効力は、発遣後15日後となっていたことから、当初、7月25日以降に申告書を提出する納税者は、移転価格文書等を添付しなければならず、添付がなければペナルティが課されると心配されました。移転価格文書を作成するには、かなりの日数を要することから、寝耳に水の納税者から大変な非難が上がりました。そこで、BIRは、すでに期限が到来する事業者については、2021年1月末まで移転価格文書等の添付の期限を延長する対応をはかるとの情報が流れています。

必要となる書類

申告書別表に該当するBIR Form No.1709の添付書類として必要となる書類は、契約書あるいは取引を証する写し、外国で税金を納めたことを証する証明書など、複数に及びます。その中の1つとして移転価格文書があります。移転価格文書(any transfer pricing documentation)についての詳細な説明は、通達にはありませんが、現時点では、ローカルファイが匹敵するものと考えられています。

適用基準~金額基準と対象取引

今回の通達の特筆すべき点は、ローカルファイルの作成を判断する金額基準がない点です。そのため、フィリピンに進出している企業は、すべからく移転価格文書の作成を要します。

加えて、日本の移転価格税制では、ローカルファイルの作成は、例えば、日本の親会社とフィリピンの子会社とに取引(国外関連取引)があれば、それらを対象取引として作成しますが、今回の通達を読む限り、フィリピン国内の取引にも独立企業原則(ALP)を適用するようですから、仮に、国外関連取引がなくても、通達上は作成を要することになります。

また、対象となる納税者は、法人に限ると書かれていないことから、個人の事業者も対象となるものと思われます。

筆者所感

今回のBIRの通達については、移転価格のローカルファイルに対する本質的な理解が欠けているのではないかと、移転価格の専門家としては首を傾げます。それは、次のことからです。

ローカルファイルは、はたしていつ作成するのか、という議論が、従来からあります。

これについては、通常行われる事務の流れを考えれば、明らかでしょう。まず、事業年度当初に、目標とする適正利益率レンジを設定し、日々の取引を行い、四半期や半期など適宜、実績値が適正利益率レンジ内にあるかを確認し、決算期末に備えます。その結果、事業年度を通しての実績値が、適正利益率レンジ内にあるか否かを、ローカルファイルの末尾に「結論」として記載するわけです。

つまり、すくなくとも事業年度末までに、適正利益率レンジができていないと、移転価格の対応はできないのです。

このことを前提に考えた場合、今回のBIRの通達は、ローカルファイルそのものの機能をまったく無視したものであることがわかるでしょう。つまり、結果ありきの「課税ありき」の対応といえるのです。

コロナ危機にあり、フィリピンも他の諸国と等しく財政難でしょう。歳入の8割近くを徴収するBIRの責務は重大です。そこで、外資系企業の取りやすいところから「取る」との発想で、移転価格文書が求められているのではないか、との考えを念頭に置き、今回の対応をはかるべきです。

表現を変えれば、適正利益率レンジから実績値が外れていた場合、即刻課税される可能性が高いということです。ですから、仮に、適正利益率レンジから外れていた場合は、スタートアップ期であるとか、損益分岐点売上高に達していないなどの「原因」を詰め、特殊要因分析を行うなどして、外れていることの正当性がてん補でき得るローカルファイの作成に努める必要性があります。

注意事項

移転価格文書の対応については、当局は、通達発遣後にFAQを出すなど、今後もまだまだ流動的な部分があります。弊法人としても継続的にウォッチしてまいりますが、対応等については、BIRホームページを参考になさってください。

BIRのFAQはこちら☞
https://www.bir.gov.ph/images/bir_files/internal_communications_2/RMCs/2020%20RMCs/RMC%20No.%2076-2020.pdf

BIRのホームページはこちら☞
https://www.bir.gov.ph/

(参考資料)
フィリピンの税務行政「税大ジャーナル(4号)」平成18年11月・井藤正俊
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/backnumber/journal/04/pdf/09.pdf