各国移転価格NEWS~Turkey~
今回は中東の大国でもあり、国内に19か所のフリートレードゾーンを持つトルコを取り上げます。近年トルコでは移転価格制度の整備が進み、2020年10月にはCbCR MCAA(Multilateral Competent Authority Agreement on the Exchange of Country-by-Country Reports)の合意が公表され、OECDを中心とする国際的な潮流と足並みをそろえてきました。
トルコにおける移転価格税制は、2007年1月から施行され(法人税法第5520条)、OECDの移転価格ガイドラインに適したものを採用してきました。移転価格税制の対象となる取引を行う納税者は、移転価格フォーム[1]および年次移転価格報告書を作成し、法人所得税の申告書に添付することを義務付けられました。当該報告書の提出は、大企業向け税務登録者とその他の2つに分類され、報告の内容も異なります[2]。事前確認制度(APA)も同時に取り入れられました。
移転価格が整備されるなか、トルコは2020年2月、移転価格文書について、移転価格文書の3層構造アプローチの導入に関するガイダンスを公表しました(No.2151 )。3層構造の文書化、すなわち、マスターファイル、ローカルファイル、および国別報告書(CbCR)における要件を見てみましょう。
マスターファイルの作成要件は、純利益および資産が5億トルコリラを超える多国籍企業であり、当該企業はマスターフィルを準備することを要求されます。最初のマスターファイルは事業年度2019年のもので、次年度2020年12月の終わりまでに準備する必要があり、税務当局の要請があれば提出しなければなりません。
ローカルファイルの作成要件は、実質上、年次移転価格報告書と同じです。外国との取引があるすべての納税者(大企業は、国内取引であっても必要)は、ローカルファイルを準備しなくてはなりません。フリートレードゾーンで事業をおこなっている企業は、国内取引であっても、ローカルファイルを作成する必要があります。
国別報告書の作成要件は、7億5,000万ユーロの連結収入を有する多国籍企業が該当し、当該企業は、国別報告書を準備することが要求されます。最初の提出は、2019事業年度分に対して、マスターファイルと同様に2020年12月31日までに提出することが義務付けられます。
上記の2020年2月のガイダンスでは、国別報告書の届出要件についても触れています。多国籍企業は、国別報告書提出該当企業であること、また、どの企業(親会社か代理会社か)が報告するのかを事前に届出をしなくてはなりません。提出期限は、法律の施行日から6か月以内(初回は2020年8月)、次年度からは6月末日までに税務当局に提出することが義務付けられます。その他に、OECD移転価格ガイドラインに基づき提供される地域の言及/関連者定義となる10パーセント閾値の再考/独立企業間価格の算定に当たり、取引単位営業利益法(TNMM)と利益分割法を認め、これまでの特定の移転価格算定方法の優先的な扱いの廃止/文書が正しく適切に提出されている場合のペナルティの緩和/個人を含めた関係者の定義の見直しなどが公表されました。APAに関しても、ロールバック・ルール、APAの適用期間を3年から5年へ延長、更新の場合は有効期限末日の6か月前までに更新の意思を提出するなどが定められました。大幅な移転価格税制の整備がなされたといえるでしょう。
同ガイダンスの施行に向け、2020年4月にドラフト・コミュニケが公表され、パブリック・コメントが開始されました。ドラフト・コミュニケでは、2月に公表された内容に加え、国別報告書に係る提出方法について詳細が述べられました。すなわち、報告書のフォーマットはOECDの国別報告書のフォーマットに準じたもので、電子ファイリングシステムを利用して提出する必要があると定められています。詳細については公表されていませんが、近々詳細規則が示されるとあります。国別報告書の届出についても、多国籍企業のうち2つ以上の会社がトルコ内で事業を行っている場合、届出は1つの企業が行えばよいことが明記され、届出のサンプルが同ドラフト・コミュニケに添付されています。
ドラフト・コミュニケの公表された4月の段階では、トルコは国別報告書の自動交換を行うための権限ある当局による多国間合意(CbCR MCAA)に署名していませんでした。したがって、当初、2020年末日までに同条約に署名しなければ、多国籍企業のトルコ支社は、トルコで国別報告書を提出しなければならないと危惧されました。しかし、2020年10月1日付のガゼットにおいてCbCR MCAAが公表されました(大統領令No.3038)。これより、2019年12月30日までに提出された国別報告書のMCAA加盟国内での自動交換が可能になりました。トルコに居住地があり、外国に本社を置く多国籍企業の支社については、12月末日までに国別報告書の届出を終えた場合、国別報告書の提出は必要ではなくなりました。もし手続きがなされなければ、多国籍企業のトルコ支社は、当局へ国別報告書を提出しなくてはなりません。10月のガゼットにおいて、国別報告書の届出は2020年10月30日までに行わなければならず、届出を提出する納税者は、税務署からユーザーコードとパスワードを得なくてはならないと明記されています。
先の文書では、トルコはOECDに準じた移転価格の整備を進め、CbCR MCAAに署名することにより、税務の一層の透明性を図ることを掲げています。
[1] 規則に従い、納税者は「移転価格、被支配外国法人及び過少資本フォーム」と呼ばれるフォームを作成し、会社の年次法人税申告書に添付して提出しなければなりません。記載内容としては、該当年度に発生したすべてのグループ間取引、グループ間取引に関する独立企業間価格を検証するために選択した移転価格算定方法などです。また、他に、被支配外国人、過少資本の項目もあります。
[2] 大企業向け年次移転価格報告書には以下の内容が求められます。会社の活動内容、組織構造、関連当事者の定義およびこれらの当事者の資本関係に関する情報/該当年度の製品価格リスト/売上原価の詳細/関連当事者と締結したすべての契約内容/グループ内での価格決定方針/独立企業間価格を算定するために用いた差異調整/関連当事者の財務諸表。関連当事者との取引の内、海外取引のみを記載した年次移転価格報告書を作成し、税務申告と同じように、毎年4月25日までに税務当局の要請により提出する必要があります。税務当局からの要請があった場合、トルコ語の翻訳も税務当局へ提出しなければなりません。