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調査の現場から(2)~役務提供取引と一体検証との関係

事案の概要

  1. 日本で製造業を営む親会社Pは、グループ全体のコスト低減をはかるため、製造移管を行い、アジア諸国を中心に製造子会社を有している。
  2. それら製造子会社は、完成品を、各市場にある第三者の顧客に対して販売している。
  3. Pは、R&D活動を行うとともに、製造ノウハウの改良を行っている。
  4. Pと各国外関連者との間の国外関連取引は、具体的に、次の3つと区分できる。
    (a)原材料取引(棚卸資産取引)
    (b)技術ノウハウにともなう使用料(ロイヤリティ)にかかる無形資産取引
    (c)Pの製造技術者が各製造子会社へ出張して技術支援等を行う役務提供取引
  5. 3.の事実などから、機能がより低いと認められる各国外関連者を検証対象とし、移転価格算定方法としてはTNMM(取引単位営業利益法)、利益指標としては売上高営業利益率を用い移転価格文書を作成した。
  6. 比較対象取引(企業)の選定に当たっては、4.の3つの取引を一体(一の取引)として捉え、比較対象取引(企業)を選定し、当該比較対象取引(企業)から導き出される適正売上高営業利益率レンジを算定。
  7. 国外関連者の実績値は、6.のレンジ内にあり、移転価格文書では、移転価格上の問題はない旨を結論として記載していた。

調査担当者の指摘事項

  1. 日本親会社Pの製造技術者が、各子会社へ製造技術の指導・支援に海外出張しているが、それらの実費費用(交通費、現地宿泊代など)および、海外出張期間の不在にかかる経済的利益(いわゆるアブセント・フィー)を、Pは、各子会社から徴していない。
  2. これら出張目的は、海外子会社の製造に寄与するものであることから、本来、1.に示した実費費用等を、各国外関連者から回収しなければならない。
  3. 回収がないことから、当該未回収の金額は、各国外関連者への寄附金と認められる。

納税者の反論

  1. 移転価格の検証に当たっては、棚卸資産取引、無形資産取引、役務提供取引の3つの取引を一体(一の取引)に捉え、当該取引に該当する比較対象取引(企業)を選定している。
  2. 1.により求められる適正利益率レンジ内に、各国外関連取引の実績値は収まっており、問題はないものと考える。
  3. 仮に、役務提供取引のみに課税されるのであれば、それはあくまでも移転価格の問題であり、寄附金処理は受け入れがたい。

税理士アドバイス

3つの取引を一体に検証してよいかは、取引実態、契約関係などから判断され、一概には言えない。

しかし、納税者は、移転価格文書(ローカルファイル)を作成しており、一の取引として一体検証を行っている以上は、当局は、何故に、一体検証できないのかを納税者に示す必要がある。

仮に、当局が当該未回収金額を課税する場合は、国外関連者への寄附金とするのは誤りであり、あくまでも移転価格として処理することになるものと考えられる。

解説

チェックポイント1 「どんな取引でも一体にできるわけではない」

移転価格で扱う取引は、元来、1つ1つの取引です。しかし、それを一定の束や、まとまりとして捉えているのが実務と言えます。どこまでなら、その「束」と考えられるかは、当局との間で議論になりますし、当局の相互協議室が行う、国と国/地域などの間での相互協議においても、時として問題になるようです。

取引単位をどう捉えるかはたいへん重要な論点です。しかし、その判断基準を端的に示すことは残念ながらできません(参考として『移転価格の実務Q&A』(井藤正俊著・清文社)pp.51-83)。

チェックポイント2 「一の取引」

では、当局は、一体検証(あるいは「一体論」「一の取引」)をどう捉えているのでしょうか?

そこで参考になるのが、国税庁が、平成 29(2017)年6月に公表した『移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~』の「Ⅲ 同時文書化対応ガイド~ローカルファイルの作成サンプル~」のサンプル1です。

サンプル1では、「金型、機械設備及び原材料の輸出取引、無形資産を使用させる取引、役務提供取引の各国外関連取引は、A 社の製品 X の製造販売事業に当たり一体として行われていますので、独立企業間価格についても、一の取引として算定することが合理的であると判断しました。」(下線は筆者)と説明がなされています。 ただ、この記述だけでは、どうして合理的であるかが判然としないかも知れません。

チェックポイント3 「密接不可分」とは

同ガイドブックの「取引単位に関する検討」として、「移転価格調査及び事前確認審査においては、複数の国外関連取引の価格設定が一体で行われているか、複数の国外関連取引が密接不可分であるか、という論点について、契約書、経営管理資料、顧客との価格交渉資料などを確認しながら、取引単位の合理性を検討していくこととなります。」(p.49、下線は筆者)との説明があります。

そのため、一体論により、3つに分類される国外関連取引を一の取引として、移転価格算定方法を用いる場合は、少なくとも、上にある書類をあらかじめ作成・整備・保管しておくことが必要となるでしょう。

チェックポイント4 「一の取引でない場合は役務提供取引のみで課税されることもある」

これまでの説明からおわかりのように、一体論が採用でき、役務提供取引を含む複数の国外関連取引を一の取引とみなせる場合のみ、役務提供取引にかかる費用等を国外関連者から回収していないとしても、納税者は、当該処理の正当性を主張でると考えられるでしょう。

一方、当局は、一の取引と認められない、言い換えれば、密接不可分の関係でないことを立証して初めて、役務提供取引の費用等を国外関連者から回収しなければならない、と納税者に主張できると言えるでしょう。

なお、その場合の処理は、移転価格事務運営指針3-10および3-11の規定から、あくまでも移転価格税制の適用となり、「国外関連者への所得移転額(その他流出)」となるものと考えられます。