OECDが、コロナ危機での移転価格の取扱いについての手引を公表
1 はじめに
OECDは、2020年12月18日、「Guidance on the transfer pricing implications of the COVID-19 pandemic」(以下、「手引」といいます。)を公表しました。
移転価格は、元来、経済状況が安定していることを前提に、比較対象取引を選定します。また、独立企業間価格あるいはそれにもとづく適正利益率の決定においては、複数年の財務データの使用が認めらており、実務においては、3年、あるいは、5年間の過去データが用いられています。
ところが、新型コロナ(COVID-19)により、世界経済が一変してしまい、過去の財務データとの連続性がなくなり、いま走っている事業年度には、ローカルファイルですでに求めた適正利益率レンジは使用できない。仮に、使用した場合は、親会社も子会社も赤字なのに、一方の会社に多額の利益を発生させる、いわゆる「インカム・クリエーションの問題」が生じ、実態にそぐわないではないか、という問題に直面している企業もあることでしょう。
はたしてコロナ危機下において、移転価格の問題にどのように対応すべきかで、頭を悩ませておいでの企業は、実際、多いものと思われます。
手引は、以下の「2」で示す4章から成ります。「3」で示すとおり、質疑形式で書かれています。どれも興味深いものであり、例えば、2020年の比較対象取引を選定するにあたり、赤字となっている企業(取引)を選定してよいか、という問に、それが適正なら赤字企業を選定してよい旨で回答しています。
原文は英文ですが、興味のある項目をご覧いただくことは、大変有用だと思われます。 なお、今後、このサイトにおいて、当該手引の内容を具体的にご紹介していきたいと考えております。
OECDの当該手引のサイトはこちら
☞ http://www.oecd.org/coronavirus/policy-responses/guidance-on-the-transfer-pricing-implications-of-the-covid-19-pandemic-731a59b0/
(注意)
以下「2」および「3」で示す手引の内容については、参考仮訳ですので、正確には原文を参照ください。
2 手引が扱う項目
手引は、4つの章にわかれ説明を行っています。
第1章 比較可能性分析に関する移転価格手引
第2章 損失とCOVID-19特定のコストの配分
第3章 政府支援プログラム
第4章 事前確認(APA)の合意
3 手引の項目
第1章 比較可能性分析に関する移転価格ガイダンス
1. はじめに
2. 2020年度に適用される比較可能性分析の成果をサポートするために、どのような現在の情報の使用が許されますか?
3. 独立企業間価格の設定をサポートのために、財務情報の予算額を使用できますか?
4. いかなる状況であれば、タイミングの問題が最も顕著となりますか?
5. 情報の不足に対処するために利用できる実用的なアプローチは何ですか?
5.1. 独立企業間価格の合理的な見積もりを行うために、現在の情報により補足された合理的な商業上の判断の使用は認められるか
5.2. 可能であれば、独立企業間原則の「結果テスト」アプローチが認められる
5.3. 複数の移転価格算定方法の使用
6. 他の危機データを使用して価格設定をサポートすることができますか?
7. 比較可能性分析をサポートするために、独立企業間価格の評価に使用されるデータの期間をどのように設けたられますか?
8. 価格調整メカニズムは適切でしょうか?
9. 使用された一連の比較可能な企業または取引を評価するために、どのような行動を取ることができますか?
10. 比較対象取引に、損失取引を使用できますか?
第2章 損失とCOVID-19特定のコストの配分
1. はじめに
2. 限られたリスクを負担するとある事業体が、損失を被ることがありますか?
3. COVID-19の結果に対処するために、どのような状況であれば、取り決めを変更することができますか?
4. COVID-19から生じる運用コストまたは例外的なコストは、関連者当事者間でどのように配分する必要がありますか?
5. COVID-19から生じる例外的なコストは、比較可能性分析でどのように考慮されるべきですか?
6. 不可抗力は、COVID-19パンデミックに由来する損失の配分にどのように影響しますか?
第3章 政府支援プログラム
1. はじめに
2. 政府の援助を受けることは、考慮すべき経済的な特徴となりますか?
3. 政府支援の移転価格への影響を分析する際に、他の現地市場の特徴に関するガイダンスは適正とされるのでしょうか?
4. 政府支援を受けることは、関連者間の価格に影響を与えますか?
5. 政府の支援を受けたことで、関連者間取引におけるリスクの配分が変更されますか?
6. 政府支援を受けることは、比較可能性分析に影響を与えますか?
第4章 事前確認(APA)の合意
1. はじめに
2. COVID-19は既存のAPAにどのような影響を及ぼしますか?
2.1. 経済状況の変化に照らして、納税者と税務当局は依然として既存のAPAに拘束されていますか?
2.2. 経済状況の変化は「重大な前提条件(critical assumption)」違反となりますか?
2.3. 税務当局は、「重大な前提条件」を満たさないことにどのように対応すべきですか?
2.4. 納税者は、「重大な前提条件」を満たさないことを税務当局にいつ通知する必要がありますか?
2.5. 納税者は、「重大な前提条件」を満たさないことをどのように文書化する必要がありますか?
2.6. 税務当局は、既存のAPAへの違反にどのように対応する必要がありますか?
3. COVID-19は交渉中のAPAにどのような影響を及ぼしますか?