国連が「移転価格実用マニュアル」(2021年版)を公表 | 移転価格.com | 国際税務専門の税理士事務所|信成国際税理士法人
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国連が「移転価格実用マニュアル」(2021年版)を公表

4月27日、国連は、開発途上国のための「移転価格実用マニュアル」(Practical Manual on Transfer Pricing for Developing Countries 2021) (2021年版)を公表しました。これは、国連モデル条約にもとづいたものであり、これまで、2012年版、2017年版を公表しており、今回はそれらの改訂第3版となります。

移転価格に関する国際的な取扱いについては、OECD(経済協力開発機構)が「移転価格ガイドライン」を公表しており、OECD加盟国を含む諸外国の国際取引にかかる、いわばグローバル・スタンダードとして重要視されています。わが国の当局の執行にあっても、通達において「移転価格税制に基づく課税により生じた国際的な二重課税の解決には、移転価格に関する各国税務当局による共通の認識が重要であることから、調査又は事前確認審査に当たっては、必要に応じOECD移転価格ガイドラインを参考にし、適切な執行に努める。」(「移転価格事務運営要領」基本方針 1-2⑶、下線は筆者)とするなど重要視されています。

一方で、海外取引の軸足が、アジア経済圏に移り、プレイヤーとして中国、インド、インドンネシアといった新興国が勢力を強め、貿易量の比重も高まるなか、新興国や開発途上国が移転価格(税制)に対して、どのように捉えているのかを把握する必要もあります。その意味からも、新興国等の意向が色濃く反映された移転価格実用マニュアルの内容を理解することは、企業にとっても円滑な海外取引を行う上で、重要視されるでしょう。

しかしながら、わが国では、これまで移転価格実用マニュアルに関する解説はほとんどなく、マニュアルの翻訳書籍もないことから、今後、そうした類の発表や研究が進んでいくことが望まれます。

なお、今回の第3版には、OECDが2017年公表している移転価格ガイドラインの内容や、2019年に取りまとめられガイドラインに反映された、グループ内役務提供取引にかかる金融取引などの取扱いも含められています。

解説~移転価格実用マニュアルの概要

4月27日に公表された開発途上国の移転価格に関する実用マニュアルの最新版では、金融取引、一元的な資金調達機能、国の慣行に関する新たな内容などが追加された点が、特徴の1つとして挙げられます。

また、2021年版では、利益分割(法)と比較可能性の問題に関するガイダンスが更新されています。これらは、OECDが、2017年と2019年においてガイドランの改訂を行っており、それらが反映されているものと考えられます。

実際、第3版の「序文」には、国連の今回の作業においては、OECDで行われたBEPSプロジェクトの内容を考慮・反映するとの記載があります。

(注)BEPS: Base Erosion and Profit Shiftingは、「税源浸食と利益移転」を意味し、2015年に成果物が公表されました。その後も、「行動計画1:電子経済の課税上の課題への対処」など一部の行動計画については、現在も引き続き検討・議論が行われています。

さて、600ページを超える第3版は、開発途上国の政策立案者と税務当局が複雑な移転価格問題に取り組み、二重課税を回避し、紛争を解決・支援することを目的としています。このマニュアルは、さまざまな政府の税務当局や政策当局、民間部門、学界、非政府組織の代表者などをメンバーとする国連小委員会によって起草されたものです。

2021年版は、従前の4部構成を踏襲しています。

パートAでは、多国籍企業の現状の概要、多国籍企業の運営と組織構造、移転価格機能にかかる管理について、それぞれ説明されています。

パートBは、移転価格ポリシーの設計と考慮事項として、独立企業原則、比較可能性分析、今日的な基本的な諸問題、移転価格算定方法、特定の取引に対する取り決め(契約)など、大変多義にわたる事項について説明がなされています。

また、コンプライアンス・コストの観点から、簡易的方法やセーフハーバーに関して示されてもいます。

加えて、グループ内金融取引に関する新しい内容として、第9節が設けられ、OECDにおいても2019年に検討・結論が示された、グループ内金融取引について触れています。内容としては、一般的なタイプ、各国の租税政策が多国籍企業の資金調達決定に与える影響、グループ内ローンにかかる独立企業原則の適用などについて触れられています。また、一元的な金融調達機能に関する新らたな事項も含まれています。

パートCでは、移転価格税制の設計と規制にかかわる体制、開発途上国における移転価格の実施可能性について、移転価格文書化、リスクの評価、調査の実施、および紛争解決などに焦点を当てています。

パートDでは、特定の開発途上国の実施状況について示されています。

2017年版と同様に2021年版においても、主要な新興市場である、ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカについて紹介されています。 2021年版では、新たな国として、ケニアの実施状況が追加されています。

関連サイト

「移転価格実用マニュアル」(2021年版)は☞ https://www.un.org/development/desa/financing/document/united-nations-practical-manual-transfer-pricing-developing-countries-2021