移転価格と知的財産法との関係(その3)
意匠法と移転価格税制の関係
今回取り上げるのは、意匠法です。
「意匠法などと言われても、ピンとこないや」とおっしゃる方もおいででしょう。
意匠とは、デザインのことで、創作されたデザインを保護する法律です。ですから、建物のデザイン、クルマのデザインなども保護の対象となります。
この意匠法で規定される無形資産も移転価格税制の対象とされるのです(措置法通達 66-4⑻-2、法人税施行令第183条第3項第1号ハ、同施行令大13条八号ト)。
保護対象の拡大
ところで、コメダ珈琲店というコーヒーショップをご存知でしょうか? 愛知県名古屋市に本社を置く会社で、中部地区に多くの店舗があり、今や全国に店舗を拡大していますから、お店に行かれたことのある方も多いことでしょう。
そこで、質問です。「コメダ珈琲店」とお聞きになり、何を連想されますか?
ボリュームのある食事、店内のアットホームな感じーー。ところで皆さんの中には、店舗の外観の屋根が三角形、店内が木造りのログハウス調の作りーーと思われた方はいないでしょうか?
実はこのコメダ珈琲店、かつてこの外観や内観を他社に真似されたとして訴訟提起を行っています(東京地裁平成28年12月19日決定(平成27年(ヨ)第22042号))。その際は、不正競争防止法にもとづき行われたのですが、ここでは詳しく触れませんが、今なら意匠法により提訴できると言われています。これは、令和元年改正により、建物のデザインにも意匠法が適用されるようになったからです。
関連意匠とは
いま1つが、関連意匠と呼ばれるものです。
トヨタの豊田社長が、どうしてうちの会社では、マツダさんが開発しているようなデザインのクルマが開発できないのか、と会社の会議で言われたとの話をどこかで聞いた覚えがあります。たしかに今のマツダ車は、「マツダ2」のようにラインナップがとてもすてきです。一貫した「コンセプト・カー」を作り出しているからです。
実は、マツダ、デザインでこの「関連意匠」に力を入れているのです。
意匠法における関連意匠制度とは
関連意匠制度とは、自己の意匠登録出願にかかる意匠または自己の登録意匠のうちから選択した1つの意匠を本意匠とし、本意匠に類する意匠を関連意匠として、独自の効力を有する意匠権を付与する制度です(意匠法第10条)。
本制度は、先願主義(同第9条)の例外とされ、また、類似関係にある意匠の各々を独自の意匠権の効力を持つ意匠とすることを可能とするものです。
関連意匠の趣旨
本制度は、平成10年改正において導入されました。それ以前の類似意匠制度のもとでは、本意匠である1つのデザインコンセプトから創作されるバリエーションの意匠が、本意匠と同等の価値を有する場合であっても、本意匠の意匠権の効力範囲を定める際に参酌されるにすぎませんでした。
そのため、類似意匠に類似する侵害品が出た場合、類似意匠に基づく侵害の成否は訴訟の対象外とされたのです。
これでは、意匠権者側は、十分な権利行使ができないという問題が生じていたのです。こうした問題に対処する目的で、関連意匠制度が導入されました。
改正経緯
令和元年の改正により、実は、上のマツダのコンセプト・カーのデザインにもとづくデザイン保護などを強化すべく、関連意匠制度の拡充がはかられたのです。
当初、本制度は、本意匠と同時に出願した場合に限って認められたため、本意匠取得後の製品等の投入の後において、本意匠に関連したバリエーションのある意匠の保護を図る上で不都合がありました。そこで、平成18年改正において、本意匠の意匠広報の発行の日前まで関連意匠の出願が認められるようになりました。
ただ、当該改正にあっても、基礎意匠を主軸に据え、中長期的なデザイン戦略により多様化や機動化をはかる上では十分とは言えず、令和元年改正で関連意匠の出願が、基礎意匠の出願日から10年を経過する日前まで延長されたのです。
以上のとおり、本制度は、企業が製品等のブランドの構築を図り、これを保護するという企業の今日的なデザイン戦略のニーズと密接に関係する制度と言えるのです。
ここに、事業戦略と無形資産との関係が生じ、移転価格との関係が検討される可能性が生じてきます。
関連意匠の要件
要件としては、大きく次の5つが挙げられます。
- 関連意匠の出願人が本意匠の出願人と同一であること(意匠法第10条1項)
- 関連意匠が本意匠に類似すること(同上)
- 関連意匠の出願が基礎意匠(本意匠)の出願の日以後であって、出願日から10年を経過する日前までにされていること(同上及び同5項)
- 本意匠の意匠権が消滅等していないこと(同1項ただし書)
- 本意匠の意匠権に専用実施権が設定されていないこと(同6項)
などです。
効果
基礎意匠(本意匠)については、出願から25年間権利保護され、関連意匠については、基礎意匠の出願から25年間権利保護されることになります。
活用方法
マツダの「コンセプト・カー」開発のように、企業があらかじめグランドデザインを描き、これに基づき中長期のスパンで開発を行う企業や、一貫したブランドイメージが重んじられる高級ブランド品メーカーなどの業界では、基礎意匠の関連意匠および当該関連意匠に連鎖する段階的な関連意匠を、いわば無限連鎖的に取得可能となります。デザインや企業のブランド戦略に大いに活用し得るのです。
このような取り組みを行っている日本の親会社が、海外子会社により、海外での製造・販売を行っていた場合、日本の親会社から子会社に対して、重要な無形資産の貸与等がどうなっているのかなど、当局が、移転価格の視点から検討を行うことも想定されるのです。