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移転価格と知的財産法との関係(その1)

今回、取り上げるのは、移転価格と知的財産法(以下、「知財法」といいます。)との関係です。

1 移転価格と密接な関係にある無形資産

移転価格は、知財法と密接な関係があります。例えば、OECDがBEPSプロジェクトを行い、2015年10月、行動計画8から10を1つの「最終報告書」に取りまとめました。公表された文書のタイトルは、「移転価格税制と価値創造の一致」です。この「価値創造」には、重要な無形資産や、ユニークな価値ある無形資産が絡んでくると考えられています。また、超過収益の源泉として、重要な無形資産が関係するのだと捉えられています。

平成28(2016)年度税制改正において、移転価格文書の整備がはかられ、ローカルファイルに匹敵する従来からあった文書に加え、国別報告書、マスターファイルが加わりました。このうちマスターファイルの役目は、多国籍企業グループの「青写真」を提供するとの位置づけでが、そのための情報として5つを挙げており、その1つが、まさに無形資産なのです。

また、GAFAと呼ばれるプラットフォーマーによるビジネスは、顧客のビックデータを活用していますが、それらデータは、重要な無形資産の1つとも捉えられています。

こうしたこともあり、令和元(2019)年税制改正では、「特定無形資産」なるものを法令上定義し、該当する無形資産を譲渡等した場合には、「価格調整措置」を講じるともしたのでした。それほど、無形資産は移転価格と密接な関係があります。

2 移転価格が対象とする無形資産

さて、ひと口に無形資産といいますが、具体的に何を移転価格上取り扱う無形資産かというと大変広範囲に及びます。どうして広範囲かと言えば、誤解を恐れずいえば、法令上、ガチッと定義されているものと、そうでないものがあるからです。こうしたことの詳細は、別途、取り上げるとして、「ガチッ」と定義されているものを、今回は外観してみましょう。

3 移転価格上の無形資産の定義

移転価格税制では、無形資産を、次のように規定しています(措法66 の4⑦二)。

二 ……無形資産(有形資産及び金融資産以外の資産として政令で定めるものをいう。……。)……。

かっこ書きで、「政令で定めるもの」といっています。では、政令では、どのように規定されているのでしょうか定(措令39-12 ⑬)。

法第 66 条の4第7項第二号に規定する政令で定める資産は、特許権、実用新案権その他の資産(次に掲げる資産以外の資産に限る。)で、これらの資産の譲渡若しくは貸付け(資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為を含む。)又はこれらに類似する取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合にその対価の額が支払われるベきものとする。
一 有形資産(次号に掲げるものを除く。)
二 現金、預貯金、売掛金、貸付金、有価証券、法人税法第 61 条の5第1項に規定するデリバテイブ取引に係る権利その他の金融資産として財務省令で定める資産

さて、いよいよ、特許権、実用新案権が出てきました。ここでは見ませんが、通達で無形資産の例示がされており(措通 66-4⑻-2)、その中には、「令第 183 条第3項第一号イからハまでに掲げるもの」とあります。そして、さらに辿っていくと、鉱業権(租鉱権及び採石権その他土石を採掘し又は採取する権利を含む。)、漁業権(入漁権を含む。)、ダム使用権、 水利権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、ソフトウエア、育成者権、公共施設等運営権、営業権などが、ズラズラと書かれているのです。そして、やっと私たちが聞きなれた、「特許権、実用新案権、意匠権、商標権」といった知財法が出てきます。

4 知財法とその対象

まず、お断りをしなければならないのは、実は「知財法」という法律は、ありません。知財法は、特許法、著作権法をはじめとする個別の知的財産保護法の総称です。

平成14(2002)年に成立した知的財産基本法では、第2条1項で、「「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。」といっています。

また、同条2項で、「「知的財産権」とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。」としています。

これだけでも、知財なるものが、広範囲であることがおわかりいただけるでしょう。

そして、わが国の移転価格税制で対象とする無形資産には、少なくとも、上で紹介した知的財産基本法で規定する知財が含まれていることを、まずは理解しておきましょう。


(注)本稿の作成に当たっては、弊法人代表社員の井藤正俊著「移転価格の実務Q&A」(清文社・2020年)「Q64」(301頁~316頁)を参考にしています。