移転価格と独占禁止法との関係 | 移転価格.com | 国際税務専門の税理士事務所|信成国際税理士法人
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移転価格と独占禁止法との関係

今回は、移転価格と独占禁止法との関係を考えてみたいと思います。
(注)なお、独占禁止法は通称であり、正式には、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」と言いますが、以下では、その意味で「独占禁止法」あるいは「独禁法」を用いています。

当方で移転価格に関するセミナーなどを開催すると、受講者の方から、

「移転価格は独立企業間価格を問題視するわけですから、競争に打ち勝つために、価格戦略は取れないのでしょうか?」

「企業グループの事業戦略として、マーケットで低価格戦略を取るために、いっとき建値を独立企業間価格と違う価格でやり取りしてはいけないのでしょうか?」

という類の質問をいただくことがあります。

移転価格は、第三者価格でグループ間の価格も行うという基本コンセプトですから、そのような疑問が生じてくるのでしょう。

一方、移転価格において、比較対象取引の選定に当たり、事業戦略を検討することが求められています(租税特別措置法通達66-4⑶-3)。そことの関係で、上の質問のように、低価格戦略の採用の可否の疑問などに至りもするでしょう。

低価格戦略を取ることも可能

企業は、移転価格税制下においても、企業が独自に様々な事業戦略を採用することは可能です。しかし、事前に事業計画書等で明記し、組織内の合意を得ておく必要があります。

次に、低価格戦略により、例えば、日本の親会社から海外の子会社への売上の単価が、比較対象取引よりも低額となることを、一定の期間により正当な理由で行うことを明示しておかねばならないでしょう。そして、「一定の期間」が、短期間であり、数年単位でないことも明示しておく必要があるでしょう。

加えて、海外子会社支援など、当該事業戦略を超えるものではないことにも配意したことをあわせて明記すべきものと考えます。これらは、後々、税務調査があった段階で、事業戦略にもとづく施策を行ったものの、計画と実績が異なる点について、当局の「後知恵」により、移転価格や寄附金の問題などの指摘を受けないためにも、書類として残していくことが必要になる事項です。

こうしたことなどを行った上で、短期間で(上の例であれば)市場戦略の一環として低価格戦略を実際のマーケットで行うことも可能といえるでしょう。

独禁法上の問題

以上は、こと移転価格の視点から低価格戦略と、国外関連取引の関係を見たものです。

ただ、ここで気をつけねばならないことは、いわゆる独占禁止法との関係です。

日本のマーケットを念頭に考えた場合は、インバウンド取引が例として挙げられます。例えば、海外の親会社から日本の子会社が商品を輸入し、日本市場で再販売を行うケースです。

日本の子会社が、低価格戦略を採用し、市場を席巻しようとした場合、どうかという問題です。これについては、移転価格上の問題は、上の記述と同様に考えればよいでしょう。

しかし、独占禁止法上、これが許されるのか、という問題があります。

まず、親子間の取引については、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下、「指針」といいます。)の「(付) 親子会社・兄弟会社間の取引」「1」において、「親会社が株式の 100%を所有している子会社の場合には,通常,親子会社間の取引又は兄弟会社間の取引は実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められ,これらの取引は,原則として不公正な取引方法による規制を受けない」としていることから、独占禁止法上の問題は生じないことを示しています。

しかしこのことは、あくまでも(移転価格税制でいうところの)国外関連取引での話であり、上の例であれば、再販売する価格の拘束等を、日本の子会社が第三者に行った場合は、独占禁止法上の問題が生じる可能性があるので、留意する必要があります。

この点について指針は、同「3」で、次のとおり述べています。

親子会社間の取引又は兄弟会社間の取引が実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められる場合において,例えば,子会社が取引先事業者の販売価格を拘束していることが親子会社間の契約又は親会社の指示により行われている等,親会社が子会社の取引先である第三者の事業活動を制限する場合には,親会社の行為は不公正な取引方法による規制の対象となる

(注)下線は筆者による。

マーケットにかかる事業戦略は、市場浸透戦略や低価格戦略など様々でしょう。ただ、当該企業がマーケットに与える影響力により、その効果もおのずと異なってきます。

独占禁止法上の目的が、公正且つ自由な競争を促進し、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進するという、移転価格税制とは異なる目的であることを十分理解した上で、企業が採用しようとする事業戦略が、不当な取引制限や不公正な取引方法に抵触しないかを、別途、よく検討する必要があるといえます。

また、上で引用した指針は、あくまでも日本の独禁法上の判断の1つに過ぎません。ですから、多角的に検討をする必要もあるでしょう。

一方、アウトバンドの海外市場を念頭に行われるマーケット戦略においては、当該マーケットを規制する法令、例えば米国であれば、日本の独禁法に該当する反トラスト法などを十分検討した上で、戦略を組み立て、価格にまつわる事業戦略の採用の可否を検討する必要があるでしょう。

以上のことから、移転価格税制上は採用可能な事業戦略が、独禁法上、採用できない事業戦略となることもあり得ることを、理解しておくことが肝要です。

関連サイト

公正取引委員会:「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」☞
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.html