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コラム

租税裁判:ロケーション・セービング・その他現地市場の特徴から生じる残余利益の扱いについて~日本ガイシ事件(その1)~

はじめに

残余利益分割法(RPSM)が適用され通常の利益を上回る利益部分は、多くの場合、無形資産の貢献により生じていると捉えられがちです。しかし厳密には、ロケーション・セービングやその他現地市場の特徴により超過利益が生じていることもあります。本事件は、その点が争われた事件です。

問題意識

1 残余利益分割法の「残余利益」

RPSMは、一般に、日本の会社と国外関連者との両者が、重要な無形資産を有している場合に用いられる移転価格算定方法です。

残余利益は、重要な無形資産から発生されるものと考えられることが多いでしょう。例えば、RPSMが用いられたホンダ(ブラジル)事件(東京高裁平成27年5月13日判決)では、日本の研究開発力とブラジル子会社のマーケティング力が、それぞれ重要な無形資産として考えられました。

本事件では、日本ガイシとポーランドの子会社(国外関連者)とに、重要な無形資産が生じている場合ですが、超過利益の発生が、単に無形資産の貢献のみではないとして争われています。

2 「残余利益」の発生要因

それでは、どのような要因から、通常の利益を上回る残余利益が生じているのでしょうか。その1つは、上で示した超過収益を生む重要な無形資産です。他の要因が、ロケーション・セービングやその他現地市場の特徴と呼ばれるものです。

3 ロケーション・セービングやその他現地市場の特徴

OECD移転価格ガイドライン(2017年版)では、ロケーション・セービングについては、「第1章 D.6.1. ロケーション・セービング」においてその取扱い方を、また、具体的な例示として、パラグラフ9.126において「ロケーション・セービングは、多国籍企業グループが業務の一部を、当初の業務遂行地よりもコスト(人件費、不動産コスト等)の安価な場所に移管する場合に生じる。その際、移管に伴い見込まれるコスト(例えば、既存の事業の終了費用、新たな場所でより高くなるかもしれないインフラコスト、新事業では市場との距離が離れるためより高くなるかもしれない輸送コスト、現地従業員の研修費用等)を考慮に入れるものとする。」と説明するなどしています。

また、その他現地市場の特徴については、「D.6.2. その他現地市場の特徴」のパラグラフ1.144において、「例えば、特定の問題に関して行われた比較可能性分析及び機能分析により、製品が製造又は販売される地理的市場に関する特徴、市場の購買力や家計の製品選好、市場が拡大又は縮小するか、市場の競争度合や市場の価格・利益率に影響を与えるその他の要因の度合が示唆されるかもしれない。」と述べています。

4 比較可能性分析・機能分析との関係

本来、ロケーション・セービングやその他現地市場の特徴は、比較可能性分析及び機能分析により検討され、必要に応じて差異調整を行う、残余利益から除外する、日本の会社あるいは国外関連者に帰属させる、あるいは両者に配分するなどを、検討することになります。

日本ガイシ事件では、その他現地市場の特徴から生じる利益を、国外関連者が存する市場が、いわば寡占市場であり、寡占市場と成り得たことは国外関連者の設備投資によるものであり、その貢献を評価し、利益分割ファクターを考慮すべきと親会社たる日本の法人(納税者)が主張しています。

5 利益分割ファクターの追加

利益分割ファクターについては、基本的利益から「基本的減価償却費」を算定し、国外関連者の減価償却費がこれを超過する部分を「超過減価償却費」として仮想し、利益分割ファクターに追加すべきであると納税者は主張しています。

こうしたアプローチは、これまでの移転価格の訴訟事件において初めてではないかと思われます。

おわりに

本事件は、残余利益分割法が用いられた事件で、ホンダ(ブラジル)事件同様に、ロケーション・セービング、その他現地市場の特徴が検討された事件です。また、寡占市場に対する移転価格の捉え方が注目される事項といえます。

地裁判決では、納税者の主張が一部認容・一部棄却された結果、課税所得が取り消された効果と同様の判決となっています。本事件は控訴されていることから、今後、高裁の判断も注目されるところです。

〔参考:日本ガイシ事件〕
第一審:東京地方裁判所  平成28年(行ウ)第586号