国税庁が、移転価格の通達を改正~金融取引や費用分担契約など
概要
国税庁は、移転価格に関する通達(「移転価格事務運営要領」(事務運営指針))について、以下に示す内容を主たる改正点として、本年6月10日、改正する見込みであることを発表しました。
なお、今回の変更部分の適用は、法人の令和4年7月1日以後に開始する事業年度分の法人税の調査又は事前確認審査においてとなります。
■通達の「新旧対照表」は、こちら☞
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/kaisei/220610/pdf/01.pdf
■別冊事例集の「新旧対照表」は、こちら☞
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/kaisei/220610/pdf/02.pdf
■パブリックコメントによる「意見募集の結果」は、こちら☞
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=410040010&Mode=1
主たる改正点
主な改正点をハイライトすれば、次のとおりです。
1 OECD移転価格ガイドライン第 10 章(金融取引に係る移転価格の側面)の追加に伴う改正
- 金融取引の調査における取扱い
- 金融取引に係る独立企業間価格の検討を行う場合の留意事項
- 上記のほか所要の改正
2 OECD移転価格ガイドライン第8章(費用分担契約)の改訂に伴う改正
- 費用分担契約の定義の明確化
- 費用分担契約の移転価格税制上の取扱い
- 費用分担契約に関する調査における留意事項
- 費用分担契約における既存の無形資産の使用がある場合の検討すべき事項
- 費用分担契約に係る検討を行う書類
3 その他
OECD移転価格ガイドライン第1章において、独立企業原則の適用を検討する際には、「取引の正確な描写」が重要であることが示されたことを踏まえ、移転価格税制上の問題の有無を検討する際には、諸要素等に基づいて国外関連取引の内容等を的確に把握することを明確にするほか、所要の見直し
4 別冊「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」の改正
- 【事例4】(独立価格比準法に準ずる方法を用いる場合)
≪前提条件2:金銭の貸借取引の場合≫について、適用事例の内容を見直し - 【事例4】(独立価格比準法に準ずる方法を用いる場合)
新たな適用事例として、≪前提条件3:債務の保証の場合≫を追加 - 【事例7】(寄与度利益分割法を用いる場合)
新たな適用事例として、≪前提条件4:キャッシュ・プーリング≫を追加
弊税理士法人のコメントとそれに対する国税庁の考え方
実施されたパブリックコメントにおいて、弊税理士法人は、事務運営指針3-8(金融取引に係る独立企業間価格の検討を行う場合の留意事項)の規定に対して、次の意見を提出しました。
「金融取引については、取引金額の多寡にかかわらず一律に同指針の適用を求めるならば、納税者にとっては、過重なコンプライアンス・コストが発生し、実務上、問題があると考えられることから、貸付金額や債務保証等の額に一定の金額基準を設け、当該金額基準を下回る場合は、現行の方法で対処することを認めるなど、一種のセーフ・ハーバー・ルールを設けるべきと考える。
セーフ・ハーバー・ルールについては、すでに指針3-11(企業グループ内における役務提供に係る独立企業間価格の検討)において、一定の要件を満たす役務提供取引について、当該役務提供に係る総原価の額に、当該金額に5%を乗じた額を加算した金額を独立企業間価格とすることを認めており、今回の指針変更が与える実務上のインパクトを考慮すれば、現実的な対応と思料するものである。」
当該意見に対して、国税庁の考え方として、次の内容が示されました。
「OECD移転価格ガイドラインのパラグラフ3.83において示されているとおり、独立企業原則は、中小規模の企業及び取引にも等しく適用されます。これは、措置法第66条の4第1項の規定の適用についても同様です。したがって、独立企業原則を適用する場合の核心である比較可能性分析に基づき、最も適切な方法により独立企業間価格を算定する必要があるという考え方は、企業及び取引の規模によって変わるものではありません。
しかしながら、改正指針の取扱いは、必ずしも、一律に適用することを意図したものばかりではなく、例えば、改正指針3-8(2)において示している信用格付等を用いて取引の当事者の信用力の比較可能性を検討する方法は、「用いることができる」としているとおり、「用いることができる」方法の一例を示したものであることから、一律の適用を求めるものではありません。
また、改正指針3-8(5)(注)において「法人が現実に行われる取引に依拠しない指標を用いて想定した取引を比較対象取引として国外関連取引に係る対価の額を算定している場合であっても、そのことのみをもって当該国外関連取引について措置法第66条の4第1項の規定の適用がある場合に該当することにはならないことに留意する。」と示しているとおり、例えば、法人が取引のある銀行等に照会して取得した見積り上の利率等を基に国外関連取引に係る対価の額を算定している場合であっても、そのことのみをもって措置法第66条の4第1項の規定が適用されるものではなく、法人がこのような方法で国外関連取引に係る対価の額を算定すること自体が移転価格税制上の問題となるものではありません。もっとも、法人が銀行等により照会して取得した見積り上の利率等を基に算定した対価の額は必ずしも独立企業原則に即した結果になっているとは限らないため、改正指針3-1、3-7及び3-8等を踏まえて算定した独立企業間価格と異なる(複数の比較対象取引によって形成される独立企業間価格の幅から外れる)場合には同項の規定が適用されることになります。これらの指針は、法人が過重なコンプライアンス・コストをかけてまで指針上に例として示されている方法により国外関連取引の対価の額を算定することを求めるものではありません。
セーフ・ハーバー・ルールについては、OECD移転価格ガイドライン第4章Eにおいてガイダンスが示されていますが、国外関連取引の対価の額を簡便な方法により算定できる反面、例えば、相手国等との合意がないユニラテラルのセーフ・ハーバー・ルールを導入した場合、二重課税又は二重非課税のリスクを引き起こす可能性が懸念されます。
なお、御意見の中で言及されている指針3-11(1)の取扱いは、OECD移転価格ガイドライン第7章のガイダンスを踏まえた、国際的に受け入れられている簡便法と整合的なものであることから、二重課税又は二重非課税のリスクを引き起こす可能性はほとんどないものと考えられますが、金融取引に関しては、OECD移転価格ガイドラインにおいても簡便法のガイダンスは示されておらず、企業グループ内役務提供の場合とは状況が異なります。」
要すれば、弊税理士法人の意見は、コンプライアンス・コストへの配慮を求めるものであり、国税庁の考え方は、わが国の移転価格税制およびOECDにおいて、金融取引に関するセーフ・ハーバー・ルールに関する具体的な合意がないことから、二重課税等のリスクが生じる可能性があり、弊税理士法人の意見は受け入れられない、と言えるでしょう。
ただ、そのような考えに立脚するのであれば、今後、コンプライアンス・コストに配意した移転価格にかかわる日本独自の執行を行う余地はないとも解され、自ら自立性を放棄していると言えなくもないのではないでしょうか。