米国におけるJoint accountと日本における相続税法上のJoint accountに関する取扱い
米国及びその他の国々においては、配偶者と共同で開設するJoint account(夫婦共同名義預金口座)が存在する。
当該預金口座は、一般的に、一方の配偶者の死亡により、その所有権が他方の配偶者に自動的に移転することから、海外に居住していた被相続人の日本における相続税の申告に際し、申告もれが発生する可能性がある。
今回は、米国のJoint account(夫婦共同名義預金口座)について、その内容と相続税法上の取扱いについてお話します。
1 米国におけるJoint accountとは
米国で預金を開設する際に、配偶者を有する場合には、Joint account(夫婦共同名義預金口座)を開設するのが一般的である。
複数の当事者の名義で開設できることから、Multiple parties accountとも呼ばれている。
2 Joint account開設のメリット
Joint account(夫婦共同名義預金口座)開設は次のメリットを有する。
第1のメリットは、夫婦それぞれが預金を引き出す権限があり、夫婦それぞれが小切手を作成することにより出金することができる利便性がある。
第2のメリットは、夫婦の一方の財産管理能力の喪失又は死亡に備えてJoint accountを開設することである。
日本においては、相続人である配偶者は、被相続人の死亡後、即座に、被相続人の預金を解約又は出金することはできないが、米国においては一方の配偶者の死亡により、Joint accountの所有権が他方の配偶者に自動的に移転することから、他方の配偶者は、自由にJoint accountを利用することができる。
第3のメリットは、遺言代替方法としてのJoint accountを開設することである。
夫婦の一方が相手に預金口座の利益を与えたいが、自分が死亡した時に与えたいケースである。すなわち、自分が生存中は預金口座を支配するが、自分が死亡した時点で、当該預金口座の残額について、裁判所を通しての相続手続きを経ずに、自動的に他方に移転させることができる。また、当該預金口座は相続財産に入らず、他方の配偶者に預金の利益を与えることができる。
3 日本における相続税法上のJoint account(夫婦共同名義預金口座)に関する取扱いについて
- 相続の効力
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。(民法896条) - 相続税の納税義務者
相続により財産を取得した者は相続税を納める義務がある。(相法1の3) - 相続税の課税財産の範囲
相続により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。(相法2) - 相続税法上のJoint accountに関する取扱い
米国においては、共同名義者は、預金者の死亡により、生残者として口座の管理権も所有権も承継することが認められているが、日本の民法上は、当該承継は、預金者の死亡が原因であることから、配偶者が共同名義者である場合には、相続人(配偶者)が被相続人の財産(Joint account)に属した権利義務を承継すること(民法896条該当)である。
したがって、日本の相続税法上は、当該Joint accountのうち、被相続人に帰属する部分は、配偶者が相続により取得した財産に該当し、配偶者は相続財産として申告しなければならない。(相法1の3、相法2該当)