「デジタル経済下における国際課税研究会」が中間報告書を公表 | 移転価格.com | 国際税務専門の税理士事務所|信成国際税理士法人
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「グローバル・ミニマム課税」の解説(1)~計算構造と「連結等財務諸表」

通称「グローバル・ミニマム課税」——わが国の「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等」については、6月30日に省令が公表され、本法、政令と出そろったことになります。

今後、弊税理士法人としては、「グローバル・ミニマム課税」(以下、「GMT」といいます。)に関する情報発信を行って参ります。第1回目は、GMTの「計算構造」についてです。

GMTは会計重視~連結財務諸表の活用

これまでの法人税の計算構造は、「当期利益」(または当期欠損の額)からスタートし、法人税法が規定する「別段の定め」を加算あるいは減算して「所得金額」(あるいは欠損金額)を計算し、税率を乗じて法人税額を求めるものとなっています。

GMTは、法人税本法に規定されましたが、これまでの法人税の計算とは、まったく異なる構造になっているのです。GMTのスタートは、企業会計そのものをベースに置くのです。

どうしてそのような構造になっているのでしょうか? その理由は、世界の約140もの国や地域が、GMTに賛同し、導入されたことにあります。

ひと口に法人税といっても、その構造や規定ぶりは国により異なります。わが国のように、会計の利益を引き継ぎ、そこから法人税法の特有な処理を行う体系のものもあれば、米国のように、企業会計と法人税法とがまったく異なる存在としてある体系を採用している国もあるのです。そのため、GMTを創設するからといっても、各国の法人税法をベースとしてGMTを一律に規定するわけには、土台できない事情があったのです。

一律に利用できる会計

そもそもGMT導入にあたり大切なことは、「一律」です。約140もの国や地域が、一律にGMTを導入するのですから、何らかの「共通項」がなければ、導入は困難だったのです。

そこで見い出されたのが「会計」です。会計は、いわば万国共通です。細部を見れば、たしかに異なる部分もあります。しかし、財務諸表の構造自体は、おおかた共通していると言えるでしょう。そのうえ現在は、財務会計における国際的な共通語と呼んでもよい基準、すなわち国際会計基準があります。そこで、これを活用しない手もなかったのです。

また、特定の国や地域の会計基準やそれらを適用した財務諸表の利用者が多ければ、これを「共通言語」として認知することも有効でしょう。

そうした前提で、GMTは、連結財務諸表により、いわば投網(とあみ)をかけ、そこで把握される「企業グループ」を、GMTの適用対象となる「会社等」と捉えることにしているのです。

このようなコンセプトで定義づけられている用語が、「連結等財務諸表」です。「等」とあるのは、連結財務諸表に限定せず、個別財務諸表のみで作成された企業グループであったとしても、仮に、連結財務諸表を作ったならば、との仮定により、GMTの適用範囲を把握するからです。

つまり、「連結等財務諸表」は、連結財務諸表を作成している企業集団を、GMTが対象とする企業グループと捉えるツールに他らないないのです。

ただ、その際、何でもかんでも取り込むのではなく、一定の企業会計を採用しているものとし、あくまでも、国際会計基準や、財務省令で規定される16の国や地域で用いられている会計基準により作成された財務諸表となります。

GMTは、このように企業会計の連結をベースにスタートしていく構造であることが、1つの大きな特徴となっています。

法令

法人税法

(定義)
第八十二条

この章において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 連結等財務諸表 次に掲げるものをいう。
イ 特定財務会計基準(国際的に共通した会計処理の基準として財務省令で定めるものその他これに準ずるものとして財務省令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)又は適格財務会計基準(最終親会社等(第十五号イに掲げる共同支配会社等を含む。)の所在地国において一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(特定財務会計基準を除く。)をいう。以下この号において同じ。)に従って企業集団の財産及び損益の状況を連結して記載した計算書類
ロ イに掲げる計算書類が作成されていない企業集団につき、特定財務会計基準又は適格財務会計基準に従ってその企業集団の暦年の財産及び損益の状況を連結して記載した計算書類を作成するとしたならば作成されることとなる計算書類
ハ 特定財務会計基準又は適格財務会計基準に従って会社等(会社、組合その他これらに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)をいう。以下この節において同じ。)(次号イに掲げる企業集団に属するものを除く。ニにおいて同じ。)の財産及び損益の状況を記載した計算書類
ニ ハに掲げる計算書類が作成されていない会社等につき、特定財務会計基準又は適格財務会計基準に従って当該会社等の暦年の財産及び損益の状況を記載した計算書類を作成するとしたならば作成されることとなる計算書類

法人税法施行規則

(特定財務会計基準の範囲)
第三十八条の四

法第八十二条第一号イ(定義)に規定する国際的に共通した会計処理の基準として財務省令で定めるものは、国際会計基準(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和五十一年大蔵省令第二十八号)第九十三条(指定国際会計基準に係る特例)に規定する国際会計基準をいう。次項において同じ。)とする。
2 法第八十二条第一号イに規定する国際的に共通した会計処理の基準として財務省令で定めるものに準ずるものとして財務省令で定めるものは、我が国又は次に掲げる国若しくは地域において一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(国際会計基準を除く。)とする。
一 アメリカ合衆国
二 インド
三 英国
四 オーストラリア
五 カナダ
六 シンガポール
七 スイス
八 大韓民国
九 中華人民共和国
十 ニュージーランド
十一 ブラジル
十二 香港
十三 メキシコ
十四 ロシア
十五 欧州連合の加盟国
十六 欧州経済領域の加盟国(前号に掲げる国を除く。)

(注)下線は筆者による。