相互協議 | 移転価格.com | 国際税務専門の税理士事務所|信成国際税理士法人
移転価格辞典
移転価格文書の基礎

相互協議

相互協議とは、租税条約に基づく日本の税務当局と相手国の税務当局との協議をいい、租税条約を締結していない国又は地域とは相互協議を行うことができません。相互協議には移転価格課税を受けて、その二重課税を排除するために行われるものと、事前確認に係るものとの2種類があります。

移転価格調査で課税を受けた場合には、課税を受けた納税者の取引の相手国が租税条約締結国であれば二重課税を排除するために租税条約に定める所定の期間内に相互協議の申立てをすることができます。双方の国に申立書が受理されると、二国間で合意に向けた話し合いが開始されます。相手国にもよりますが、相互協議は日本あるいは相手国で年に複数回行われ、協議が決着するまで通常数年の期間を有します。ここで注意が必要なのは相互協議が行われたからといって必ずしも二重課税が排除されるとは限らないということです。相互協議が合意に至らず決裂してしまう場合、あるいは一部のみ合意する場合などは二重課税が残ったままになってしまいます。相互協議で合意された場合には、合意された金額に従い相手国で所得の減額および還付手続き(対応的調整)が行われ、更正金額が合意金額を超えていた場合には日本では減額更正が行われます。なお、対応的調整について制度化されているものの、新興国では還付を国内法で認めていないというケースもあり、相互協議が困難になる場合があるため相手国の状況を事前に情報収集しておくことが望ましいです。

次に事前確認に係る相互協議についてですが、事前確認とはAPA(Advance Pricing Agreement)と呼ばれ、相互協議が必要な二国間APA(バイラテラルAPA)、多国間APA(マルチラテラルAPA)と相互協議が不要な単一国APA(ユニラテラルAPA)があり、納税者が税務当局に申し出た移転価格算定方法等について税務当局がその合理性を検証し確認する制度をいいます。APAは全世界に先駆けて日本が1987年に導入した制度で、現在では30カ国以上の国で導入されています。APAを行うことにより納税者は合意内容に従った移転価格税制の対応を行うことになるため、移転価格調査に関連する事務負担を軽減し、移転価格課税の回避を行うことができます。ユニラテラルAPAは一国内での事前確認で、相互協議により相手国との確認を得ているものではないため、相手国の移転価格課税リスクが排除できるものではありません。ユニラテラルAPAは日本において移転価格課税リスクが高いものの相手国の移転価格課税リスクが極めて限定的である場合や、取引の相手国と租税条約を締結していない場合などについては有効ですが、相手国がAPAを導入している場合にはバイラテラルAPAが推奨されます。APAでは移転価格調査とは異なり、複数年度で検証が行われ、またレンジの概念も用いられるため納税者として柔軟な対応が可能になります。また、過年度への遡及適用(ロールバック)が認められる国もあるため、過去の移転価格課税リスクの排除の手段としても有効な場合があります。
(事前確認手続☞事務運営要領5章)