チェック! ローカルファイル(その5)~レンジから絶対外れない?~
発端
ローカルファイルの見積もり依頼を受けて、会社にお邪魔した時のことです。
海外の親会社では、すでにローカルファイルを作成されており、日本に進出してきた子会社たるその会社も、ローカルファイルを作成する必要が生じたことから、弊社に依頼があったのです。
わざわざ海外から来日されたCFO(最高財務責任者)と話していたところ、ひょんなことから、適正レンジ(幅)から外れた場合にどうするのか、という話題になりました。
参考にと、日本の移転価格事務運営要領(指針)の取扱いを説明したところ、「レンジから外れるようなことは絶対にない!」と、いきなり語気を強めて反論されてしまいました。
見積依頼の段階なので、私もそこでやめておけばよかったのかも知れませんが、CFOにいらぬ誤解を持たれ、あとあと問題となるのも懸念され、「どうして、そうお考えなのですか?」と問うてしまったのでした。
CFOいわく、会社のビジネスは、利幅の小さく、産業自体が安定しているから、というのが主な理由でした。
そこで、思わず、「そうでしょうか――」と私もよせばいいものを、いくつかの例を挙げ、説明したのですが、何かが彼の琴線に触れたのか、会話はヒートアップしてしまったのでした。
レンジから外れる要因
一般論でいえば、移転価格算定方法にもよりますが、仮に、適正利益率レンジが設定されたとしても、為替レートの変動、製造業であれば受注にともなう操業度の影響、外部調達の特殊原材料の高騰、産業全体の不測の変化など、その影響を受けて、検証法人(この話題のケースでは日本の子会社)に波及し、実績値がレンジから外れることは、決してないとは言えないのです。
ローカルファイルを念頭に置いた場合、大切なことは、“外れた場合にどうするか”です。
そう考えてみますと、ローカルファイルの作成と“外れた場合にどうするか”の対処方法の設定は、いわば、ワンセットと言えるでしょう。みなさんのところはいかがでしょうか?
指針での「価格調整金」規定
では、指針では、どのように書かれているのか確認してみましょう。3-21に、価格調整金等として書かれています。
(価格調整金等がある場合の留意事項)
3-21 法人が価格調整金等の名目で、既に行われた国外関連取引に係る対価の額を事後に変更している場合には、当該変更が合理的な理由に基づく取引価格の修正に該当するものかどうかを検討する。
当該変更が国外関連者に対する金銭の支払又は費用等の計上(以下「支払等」という。)により行われている場合には、
①当該支払等に係る理由、
②事前の取決めの内容、
③算定の方法及び計算根拠、
④当該支払等を決定した日、
⑤当該支払等をした日等
を総合的に勘案して検討し、当該支払等が合理的な理由に基づくものと認められるときは、取引価格の修正が行われたものとして取り扱う。
なお、当該支払等が合理的な理由に基づくものと認められない場合には、当該支払等が措置法第66条の4第3項の規定の適用を受けるものであるか等について検討する。
(注)①、②、③、④、⑤の付加・改行、及び、下線は、筆者によります。
3-21では、レンジから外れた場合は、「価格調整金」として調整することを認めています。
寄附金となる場合も
ただし、レンジに入れるための価格調整金として認められる場合は、合理的な理由にもとづくものでなくてはなりません。その「合理的な理由」は、①~⑤の条件などを満たす場合で、なおかつ、それらが総合的に勘案されなくてはなりません。仮に、会社が価格調整金との名目で送金等を行っていても、当該支払等が、措置法第66条の4第3項の規定の適用、すなわち、国外関連者に対する寄附金として処される場合もあるということです。
誤解してはならないことは、適正利益率レンジから外れたまま放置しておけば、移転価格税制による「国外関連者に対する所得移転金額」として課税されるということです。
平たくいえば、ローカルファイルのレンジから外れれば問題だし、レンジに入るように調整したとしても、適正な調整でなければ寄附金課税をされてしまうということです。
ですから、ローカルファイルと“外れた場合にどうするか”は、ワンセットなのです。
おわりに
さて、これまでの説明に対して、「でも、うちは、中国に進出していて、送金は望めないし……」と、お考えの方がおいでかも知れません。ただ、そのお考えには、少々、誤解があるかも知れません。
その点については、次回、解説したいと思います。
ちなみに、くだんのご依頼主様ですが、会話がヒートアップしてしまったことがアダとなったのでしょうか、あるいは、私の英語での説明がまずかったためでしょうか、はたまた、その両方だったのでしょうか、残念ながら、ご依頼はいただけませんでした。(-_-;)
(本シリーズ続く)