OECD移転価格ガイドライン(2022年版)特集(2)用語集に、「ユニークで価値ある貢献」が追加されました。
「用語集」とその役割
移転価格ガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます。)の原文である英語版を見ると、巻頭に「用語集」(Glossary)が搭載されています。
用語集は、とても重要なものです。なぜなら、各パラグラフを正確に読み解くうえで、不可欠だからです。また、用語の定義の変更により、OECDがどのような内容に注視し、変更したのかを知りえ、OECDの問題意識を垣間見ることもできるからです。
例えば、近年の改正では、2017年版で「商業上の無形資産」(Commercial intangible)の用語の定義が変更されました。移転価格における無形資産の重要性や留意事項を、読者たる納税者、実務家は把握することができたのです。
ただ、残念なことに、日本語版ガイドラインは、2010年版を最後に、2017年版、2022年版と「用語集」は翻訳されていません。日本語版ガイドラインにも用語集が搭載されるよう、強く望まれるところです。
「ユニークで価値ある貢献」の定義
さて、2022年版ガイドラインでは、パラグラフ2.130に、次の記載があります。
移転価格ガイドラインの用語集
移転価格ガイドラインの用語集は、「ユニークで価値ある貢献」の定義を追加して修正される。
ユニークで価値ある貢献
貢献(例えば、果たす機能、又は使用若しくは提供する資産)は、(i) それらが比較可能な状況にある非関連者間による貢献と比較可能でなく、かつ (ii) 事業活動において実際の又は潜在的な経済的収益の主要な源泉に相当する場合に、「ユニークで価値ある」ものとなる。
ちなみに、この「ユニークで価値ある貢献」という用語は、2022年版ガイドラインで、74箇所も用いられています。その数の多さから、いかに重要かがわかることでしょう。
なお、「「ユニークで価値ある」無形資産」については、パラグラフ6.17において、「……「ユニークで価値ある」無形資産とは、(i)潜在的に比較可能性のある取引当事者に使用されるか、利用可能である無形資産と比較可能ではなく、かつ、(ii)事業活動(製造、役務提供、マーケティング、販売又は管理等)におけるその使用によって、その無形資産がない場合に見込まれるよりも大きな将来的な経済的便益を生み出すと見込まれる無形資産をいう。」とも述べられていいます。
「ユニークな価値ある貢献」の明記の意義
ところで、「ユニークな価値ある貢献(unique and valuable contributions)」は、2022年版において初めて出てきた概念ではありません。2010年版ガイドラインにおいて、当時のパラグラフ2.109や2.121において既に用いられています。また、「ユニークな無形資産の貢献(contribute unique intangibles)」が、例示として挙げられてもいます(2.109)。
ちなみに、2010年版で「ユニークで価値ある貢献」はわずか1箇所であり、「ユニークな貢献」に拡大しても、その数は5つに過ぎません。この変化を、どのように捉えればよいのでしょうか。
2022年版ガイドラインは、先の2017年版ガイドライン公表後に行われた、「取引単位利益分割法」の見直しの結果が反映されたものです。
2017年版ガイドラインには、「C 取引単位利益分割法」の箇所で、次のとおり書かれていたことを、ここで思い出すべきです。
現在、第 6 作業部会では利益分割法の適用について検討されており、本節及び第2章別添Ⅱ・Ⅲの指針は、そこでの結論を受けて改訂予定である。この検討は、BEPS 行動計画 10に基づくものであり、グローバルバリューチェーンの文脈において利益分割法、特に取引単位利益分割法の適用を明確化することを目的としている。
(注)下線は、筆者による。
つまり、移転価格算定方法として、取引単位利益分割法を適用する場合は、次の2要件が必要となるといえるでしょう。
- 比較可能な第三者取引が存在しないこと
- 事業活動において、(当該何かが)実際、または、潜在的な経済的収益の主要な源泉となること
このように、用語の定義は、たいへん意味深く、注意を払う必要があると言えるのです。
OECD移転価格ガイドライン(2022年版)特集(1)残余利益分割法の分割ファクターに、累積費用の使用の余地も