移転価格調査
一般の法人税調査による更正期間は5年ですが、移転価格調査においては更正の期間は6年に延長されています。これは移転価格調査に、一般的に1年から2年と多大な時間を要するためと考えられます。
移転価格調査は、大きく所得移転の蓋然性判断のステージと、独立企業間価格の算定のステージに分けられます。所得移転の蓋然性判断のステージでは、税務当局は会社への実地調査を行う前に、まず法人税申告書に添付された別表十七(四)や、有価証券報告書その他公開情報を元に机上調査を行います。机上調査ののちに会社への実地調査が開始されます。実地調査では会社への資料依頼、各事業部への聞き取りを実施し、国外関連取引の実態把握およびその利益状況の検討が行われます。移転価格調査において提出が求められる資料は第2章第1節第5項「提出書類の内容」で具体的に説明します。
詳細な損益状況の分析の結果、所得移転の蓋然性があると判断されると次のステージ、独立企業間価格の算定に入ります。ここでは、移転価格算定方法の決定と、所得移転額の算定のための経済分析が行われます。税務当局により所得移転額が計算されると、税務当局から中間意見が提出されますが、中間意見が提出される時点では税務当局の方針はほぼ固まっているので、この段階から課税自体を覆すのはほぼ不可能といえるでしょう。通常は、中間意見が提出されたのちに、会社は反論書を提出し、税務当局と比較対象となる取引の妥当性や特殊要因調整などの論点について所得移転額の減額に関する交渉を行うことになります。なお、所得移転の蓋然性のステージでは比較対象取引から得られる利益率等のレンジや、複数の年度を通算して判断を行いますが、独立企業間価格の算定のステージでは複数年度の通算やレンジの概念は用いられず、単年度ごとの単純平均利益率との比較で所得移転額を算定することになります。
独立企業間価格算定のステージに入ってしまうと、課税を免れることはほぼ不可能ですので、所得移転の蓋然性の判断のステージでの対応が非常に重要になります。これらのステップを経て税務当局により課税の処分が下ってしまうと、修正申告書を提出するか更正通知書を受領するわけですが、移転価格税制の場合には修正申告に応じず、更正通知書を受領するケースが多いようです。これは、修正申告書を提出してしまうと二重課税排除のための手続き、つまり相互協議の申立てあるいは2011年度税制改正の「更正の請求」改正以前の課税期間における不服申立てを行うことができないからです。
2011年度税制改正において、税務調査手続きの明確化等を内容とする国税通則法の大幅な改正が行われました。税務調査手続きの透明性と納税者の予見可能性を高める観点から、税務調査を行う場合には納税義務者に対して調査対象となる税目についても事前通知が必要になりましたが、この調査対象税目としての法人税には移転価格税制も含まれることになります。税務当局は法人税調査を開始する前にその税務調査に移転価格調査も含まれるか否かを明確にする必要があります。しかし、納税者の事前の同意がある場合には一般の法人税調査と移転価格調査を別々に実施することは可能とされています。
(移転価格調査☞事務運営要領2-1~2-4)
(国外関連者に関する明細書☞措法66の4②15、措規22-10②)