チェック! ローカルファイル(その6)~レンジから外れたら?~
レンジから外れたら
ローカルファイルから求められた適正利益率レンジ(幅)から、実績の数値が外れてしまった場合で、特殊要因調整などを行ってもやはりレンジから外れるときは、どうにかしてレンジに押し込む必要があります。
押し込み方は、2つあります。1つは、前回(その5)で扱った価格調整金を用いる方法です。いま1つは、申告書別表4で調整するやり方(申告調整)です。
しかし、誤解してはならないのは、申告調整の場合は、減算はできないということです(表1参照)。あくまでも、国外関連者へ支払った金額が独立企業間価格(ALP)より多い場合と、逆に、受け取った金額がALPより少ない場合のみ可能な対応なのです。
表1 租税特別措置法通達
(独立企業間価格との差額の申告減算)
66の4(10)-2 国外関連取引につき、法人が国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格を超える場合又は国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格に満たない場合における独立企業間価格との差額については、所得の金額の計算上、確定申告書等において減額できないことに留意する。
逆にいえば、減算するケースでは、確定決算、あるいはそれ以前までに会計上織り込まなければならないわけです。
価格調整金と申告(加算)調整との相違
ここで明らかにしておきたいことは、価格調整金と申告加算調整とでは、決定的に違いがある点です。後者の処理を行う意味は、二重課税の発生を、日本の会社自らが容認することになります。
平たくいえば、「もはや、移転価格税制に基づく所得移転額を、国外関連者から取り戻さない」という意思表示を行ったことを意味します。その結果、経済的な負担を日本の会社が負うことになるわけです。
このような決断を下すには、様々な理由があるでしょう。例えば、中国のように日本への送金がままならない国に国外関連者があること、金額が僅少であり取り戻す手続の煩雑さや実際のコストを比較すると、国外関連者から取り戻すことにより、その国の税務当局をかえって刺激し税務調査を誘引する恐れがあることなどです。
それらを総合勘案して、実質的に二重課税になる対応を許容・選択するわけです。
「取り戻さない」調整にも2つある
例えば、日本の法人を検証対象とし、実績値が適正利益率レンジの下限値を下回っている場合に、日本の法人が自ら申告加算を行い、レンジに入るように調整をしているのなら、日本の当局は、移転価格上の問題を指摘することはないでしょう。それは、どうしてでしょうか?
当たり前だろう、そもそもレンジ内に入る調整をしているのだから――そう思われる方もいるでしょう。
ただ、ほとんど意識されることはないのですが、実は、日本の移転価格税制は、課税所得のみで調整(是正)すれば「善し」、とされるからです。
その一方で、申告書で加算した分は、ちゃんと国外関連者から取り戻して下さい、という考え方も実はあります。
単に課税所得の是正を行うことを、第一次調整といいます。ちゃんと取り戻しなさい、とするのが第二次調整です。わが国は、移転価格上の問題がある場合には、第一次調整のみを求める税制の体系になっていますが、そうではない国もあるのです。代表格が米国です。
第二次調整は第二次取引の擬制
第二次調整は、国外関連者から、相当金額をちゃんと取り戻さないことにより、そこには一度取り戻して、再度、支払ったとの「第二次取引」が擬制されることになります。そのため、みなし配当、みなし出資、あるいは、みなし貸付の形態となり得るわけです(『OECD移転価格ガイドライン』用語集参照)。
そこで、注意を要するのは、国外で移転価格の問題が生じる場合に、すべて日本式の、一次調整だけで対応すればよい、と思い込まないことです。さもないと、二次調整として、さらに課税されてしまう恐れがあるからです。
移転価格の問題が生じた際に、日本側で「かぶれば済む」と、短絡的に思い込まず、その国外関連者の移転価格税制を確認する必要があるのです。
(本シリーズ続く)