Downturn Economy下の移転価格問題への対応のしかた(第3回)
子会社支援を行うための価格の変更
コロナ危機となり、こんなことを考える経営者がおいでかもしれません。
子会社たる国外関連者との取引価格を変更して、瀕死の状態にあるうちの子会社を救えないだろうか?
果たしてそれは、可能なのでしょうか?
法人税法の寄附金規定
わが国の移転価格税制も法人税法の1つですが、法人税のフレームワークの中で子会社支援と聞いて思いつくのが法人税法の基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等))でしょう。
9-4-2は次のとおり規定されています。
法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
(注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。
まず、この規定は、「無利息貸付け等」と言っていますから、「等」には、様々な取引が入ってくることに注目しましょう。
そして同時に注意したいのが、通達で示す「合理的な再建計画」のハードルが高いということです。注記の下線部分をしっかり押さえて、しっかりした物を作成しておかないと、すぐに調査官から、「寄附金」の話がでてきます。
移転価格税制の寄附金規定
さて、移転価格上は、この「無利息貸付け等」の取扱いに関してどのように捉えているかとなると、移転価格税制を規定する租税特別措置法第66条の4第3項の適用との絡みで捉えています。
第3項とは、まさに国外関連者へ対する寄附金規定です。そして、移転価格の通達である移転価格事務運営要領(指針)において、次のように規定しています。長いですが、見ておきましょう。
(国外関連者に対する寄附金)
3-20 調査において、次に掲げるような事実が認められた場合には、措置法第66条の4第3項の規定の適用があることに留意する。
イ 法人が国外関連者に対して資産の販売、金銭の貸付け、役務の提供その他の取引(以下「資産の販売等」という。)を行い、かつ、当該資産の販売等に係る収益の計上を行っていない場合において、当該資産の販売等が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に該当するとき
ロ 法人が国外関連者から資産の販売等に係る対価の支払を受ける場合において、当該法人が当該国外関連者から支払を受けるべき金額のうち当該国外関連者に実質的に資産の贈与又は経済的な利益の無償の供与をしたと認められる金額があるとき
ハ 法人が国外関連者に資産の販売等に係る対価の支払を行う場合において、当該法人が当該国外関連者に支払う金額のうち当該国外関連者に金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をしたと認められる金額があるとき
(注) 法人が国外関連者に対して財政上の支援等を行う目的で国外関連取引に係る取引価格の設定、変更等を行っている場合において、当該支援等に基本通達9-4-2の相当な理由があるときは、措置法第66条の4第3項の規定の適用がないことに留意する。
この規定をご覧になり、「あれ?!」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。つまり、注記において、9-4-2を引用し、移転価格税制の寄附金の適用を受けないというのは法人税法と同様の取扱いですが、その対象となる取引が、イ、ロ、ハ、とわりと具体的に書かれているのです。
9-4-2は無利息貸付を寄附金から除外する場合の規定ですが、指針3-20では、同様の無利息貸付は、イで認めています。
イでは、他に、資産の販売、役務の提供の場合であっても、価格を変更したり、日本の工場の工員が海外の工場の支援・指導に行ったとしても、当該役務提供にかかる対価を取らなくてもよいことになるわけです。
ロでは、「実質的に資産の贈与又は経済的な利益の無償の供与」を規定し、ハはイの反対取引を規定しています。
つまり、冒頭の経営者の質問に対する回答は、「取引価格を変更して、子会社を救うことができる」となるわけです。
ただし、そのためには、「合理的な再建計画」を具備する、この1点が必要になるのです。この点について、次回さらに取り上げてみましょう。
どうも子会社支援の方法は、貸付金や利息免除だけでなく、やり方によってはありそうですね。
(本シリーズ続く)