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OECD移転価格ガイドライン(2022年版)特集(3)用語集の「貢献度分析」「残余利益分析」の記載が修正されました。

「用語集」とその役割

前回に続き「用語集」に記載の用語についてです(その役割の重要さについては、本特集(2)をご覧ください)。

今回取り上げるのは、「貢献度分析」と「残余利益分析」です。

まず、日本語の2010年版ガイドラインでは、Contribution analysisなる用語を「貢献度分析」と訳されていましたが、2022年版では「寄与度分析」と変更さています。

同じように、Residual analysisは、「残余利益分析」から「残余分析」と変更されています。

つまり、2つの用語の定義は新設されたのではなく、あくまでも修正となります。その点、誤解しないようにしましょう。

その上で、従来の定義が、どのように変更されたかを、以下で対比しながらご覧ください。

「寄与度分析」(かつての「貢献度分析」)

2010年版

利益分割法の下で使用される分析であり、利益分割法の下では、関連者間取引に参加している関連者のそれぞれが、それらの取引において果たした機能(使用した資産及び引き受けたリスクを考慮して)の相対的価値に基づき、類似の状況の下で独立企業であればいかに利益を分割したであろうかを示す外部市場データで可能な限り補足することにより、関連者間取引から得られる合算利益が関連者間で分割される。

2022年版

利益分割法において用いられる分析であり、その下で、関連者間取引における関連利益が、当該関連者間取引に参加した各関連者の寄与度の相対的価値に基づき分割され、可能な場合、類似の状況において独立企業が行ったであろう利益の分割を示す外部市場データによって補完される。

(注)下線は筆者。

コメント

2022年版が、「相対的価値」にもとづき分割することを求めています。これは、BEPSプロジェクトの2015年最終報告書(行動計画8‐10)において、同報告書が「移転価格税制と価値創造の一致」と題されたことからもうかがえるように、利益分割法にあっても、関連当事者の寄与(貢献)に応じて利益の分割を考えるとの定義になったものと思料されます。

残余分析(かつての「残余利益分析」)

2010年版

調査対象とされた関連者間取引から発生する合計利益を、二段階で分割する利益分割法に用いられる分析。第一段階では、それぞれの参加者は、その関与する取引につき基本的金を得るべく十分な利益を配分される。通常、この基本的収益は、独立企業に類似の取引において得られる市場利益を参考にして決定されることとなろう。したがって、この基本的利益は、一般に、参加者が保有するユニークで高価値の資産によってもたらされる収益は意味しない。第二段階では、第一段階における分割後の残余利益(又は損失)がある場合、その残余利益が独立企業間であれば分割されたであろう方法を示唆すると思われる事実及び状況の分析に基づき、関係当事者間に配分されることとなる。

2022年版

利益分割法において使用される分析であり、調査対象の関連者間取引における関連利益を2つのカテゴリーに分割する。1つ目のカテゴリーは、信頼できる形でベンチマーク可能な貢献に起因する利益であり、これは通常、信頼できる比較対象を見つけることができる、より複雑でない貢献に起因する。通常、この報酬は、独立企業間の比較対象取引の報酬を特定するための伝統的取引基準法又は取引単位営業利益法を適用して算定される。したがって、それは一般的に、2つ目のカテゴリーのユニークで価値ある貢献によって創出される利益、及び/又は高度な統合若しくは経済的に重要なリスクの引受けの共有に起因する利益については考慮しない。通常、1つ目のカテゴリーの貢献に起因する利益の分割後の残余利益(又は損失)の配分は、2つ目のカテゴリーの各関連者の寄与度の相対的価値の分析に基づいて行われ、可能な場合、類似の状況において独立企業が行ったであろう利益の分割を示す外部市場データによって補完される

(注)下線は筆者。

コメント

定義の冒頭、「残余分析」は、利益分割法において使用される分析であることを示しています。つまり、残余利益分割法(RPSM)ばかりか、寄与度/比較利益分割法の適用にあっても、同様に「分析」を行わなければならないことになります。

2010年版の定義が「基本的収益」を用いていたことで、RPSMに適用されるものと読めた点を変更したと考えられます。

次に、2022年版では、2017年以降の(取引単位)利益分割法の適用の検討により、利益分割法の適用となるケースとして、各関連者によるユニークで価値ある貢献のほか、高度に統合された事業活動、経済的に重要なリスクの引き受けのシェア、密接に関連したリスクの個別の引き受けなどが挙げられています。これらを意識した定義と言えます。

また、RPSMを念頭に置いた場合、基本的利益部分の移転価格算定方法は、伝統的取引基準法(基本三法:独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法)あるいは取引単位営業利益法(TNMM)にて行う旨が明記されことになります。


OECD移転価格ガイドライン(2022年版)特集(1)残余利益分割法の分割ファクターに、累積費用の使用の余地も

OECD移転価格ガイドライン(2022年版)特集(2)用語集に、「ユニークで価値ある貢献」が追加されました。

OECD移転価格ガイドライン(2022年版)特集(3)用語集の「貢献度分析」「残余利益分析」の記載が修正されました。